二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第一章 Missing−第05話






「ぷんっ」
「機嫌なおせよー」

 翌日、登校途中で誕生日パーティに行けなくなった事を告げると、亜矢は完全に拗ねてしまった。
 修平がすっかり忘れていて、美月とのデートの約束を受けてしまったのだ。
 状況が状況とはいえ、さすがに弁解の余地はないし、そもそも弁解のしようもない。
 しゅーちゃん、と付きまとわれるとうっとうしく感じもするが、小学校から縁。あまり傷つける行為はしたくないというのが本音だった。
 しかし、まずい時に、まずい事が重なるのが世の常。
 この時も例外ではなかった。
 背後から走る足音が聞こえて来たかと思うと、

「おっはよう。修平君」

 走ったままの勢いで修平の首に飛びつく美月。
 勢いがつきすぎて一瞬、修平の呼吸が止まる。
 げほげほっと咳き込むと

「大丈夫? 修平君」
「お前のせいだろうがっ、美月」

 と、そこで修平は異変を感じ取った。
 いつもの生暖かい視線ではなく、異質な何かを見たように。
 さらにもう一つ、痛い視線が。

「しゅーちゃん、その人」
「あ、おはよー。おチビちゃん」
「相田亜矢ですっ」
「じゃ、亜矢ちゃん、おはよー」
「しゅーちゃん、この人なに」

 さて、どう返答したものやら。
 例えるなら王手飛車取り、前門の虎後門の狼、四面楚歌。
 何を言っても詰むような気がした。

「じーつーは、私こと北大路美月はこの修平君と付き合ってるの」
「えー!!!」

 声は亜矢どころか周囲までもが驚きの声をあげている。
 まぁ、亜矢はともかく周りの反応はそうだよな、と変な所で納得する修平。
 これまで誰とも噂のなかった美月の付き合ってます宣言、恐らく教室につくころにはクラス中に広まってるに違いない。
 と、亜矢がひたっと修平を見つめて言った。

「嘘だよね、しゅーちゃん」
「うっ、その」
「ホントだって。今週末はデートだし」
「……今週末?」

 止める間もなかった。亜矢は涙目で

「しゅーちゃんの馬鹿っ。不潔っ」

 そのまま走り去ってしまった。
 修平は沈痛な面持ちで言った。

「ありがとう、美月。見事に色々とぶち壊しにしてくれて」
「? どういたしまして」

 分かっているのかいないのか。美月は笑顔を崩さない。

「とりあえず、手を離してくれ」
「はいっ、と」
「っ?!」

 離れる瞬間に頬にやわらかい感触。
 唇どうしではないとはいえ、キスの瞬間を見た観衆がどよめく。
 修平は小声で苦情を言う。

「……なんでここまで」
「だって、あいつが見てるもの。あっ、振り向いちゃだめよ」

 言われたとおり頭をなるべく動かさす視線をさまよわせると、確かに加太がいる。
 傍目にも苛立たしそうだ。

「なるほどね」






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