二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第二章 Release−第11話






 修平は亜矢の家を訪ねた。
 美月の病室での発言の件、その真意を聞きたかったからだ。
 インターホンのボタンを押すと、すぐに玄関のドアが開いた。
 出てきたのは亜矢の母親だった。

「あら、修平君」
「ご無沙汰してます。亜矢はいますか?」
「それが……」

 亜矢の母親は困った表情で言いよどむ。

「何かあったんですか?」
「そうね。修平君になら言っておいた方がいいかもね」

 覚悟を決めるように一息ついて

「実はね、あの子。ここ最近家に帰って来てないの」
「え?」
「学校にも行ってないみたい」
「それって行方不明って事ですか?」
「それがね、時々電話だけはかかって来るの。私は大丈夫だって」

 よくよく見れば亜矢の母親は、以前と比べるとたいぶ痩せていた。
 いくら電話が来るといっても居場所も分からなければ心配でたまらないだろう。

「もしかしたら、修平君なら知っているかもって思ってたんだけど、こうして聞きに来るって事は知らないんでしょうね」
「はい、すみませんが」
「ねぇ、お願い。もしも、亜矢を見つけたら家に帰って来るように言って。
 何も聞かないし、学校が嫌だというのなら通わなくてもいいからと」
「分かりました」

 修平は頭を下げてから踵を返した





 ガラス張りのシャワールームから男が出てきた。
 バスローブを羽織ながらベッドに向かうと、そこには全裸の少女が気だるそうに横たわっていた。

「おい。お前もさっさとシャワー浴びてこいよ」
「んー。どうせ今日はこのホテルに泊まるんでしょ? 急かさないでよー。
 それとも祐介さんところに泊めてくれるの?」
「お前、俺のところ来ると高い酒ばかばか飲むじゃねーか」
「どれが高いかわかんなーい」
「よくそれであれだけピンポントに何十万もの酒の封を開けられるもんだ」

 男は苦笑しながら少女の横たわるベッドに腰掛ける。
 手で髪を梳くと、少女はくすぐったそうに首をすくめる。

「お、そう言えば気になってたんだが。お前、あれどうしたんだ?」
「あれって?」
「いつも首にかけてたろう、ペンダント」
「あー、あれー。……捨てたよ」
「捨てたって、お前、あれ大事にしてたんじゃなかったのか?」
「むー、女には色々あるのー」
「ガキの分際で大人ぶってんじゃねーよ。そら、さっさとシャワー浴びてこいよ。出るぞ、ここ」
「え? 泊まるんじゃなかったの?」
「かわりのペンダント買ってやるよ」
「わーい、祐介さん。男前ー」

 全裸の少女は男に抱きついてから、シャワールームに小走りにかけていく。

「捨てたねぇ」

 男は苦笑する。

「そこまでしなきゃ、振り切れない程の男って事か。”しゅーちゃん”は」






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