二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第二章 Release−第12話






「あれ?」

 修平は目を丸くした。
 ノックをしても返事がなかったので恐る々々病室の戸を開くと美月はいなかった。
 病室を見渡すと車椅子もない。
 検査か何かか?
 戸口前で立ち尽くしていると、勢いよく戸が開く。
 びっくりして一歩下がると、そこには達郎がいた。
 達郎は修平を見て、一気に脱力する。

「なんだ、お前かよ」
「ご挨拶だな、仮にも院長先生のご子息が病院で騒がしくしてていいのか?」
「暢気な事言ってんじゃねぇっ! 姉ちゃんが消えたんだ」
「消えた?」

 達郎の言葉に修平も真剣な表情になる。

「どういう事だ」
「俺が聞きたい位だ。朝から病室にいないんだ。病院中探したけど見付からない」

 達郎は目に涙を浮かべている。全身にかいた汗が必死に探していた事を想像させる。

「車椅子も朝からないのか?」
「あ、ああ。でも、まさか一人でなんて」

 修平の脳裏に昨日の美月の言葉が思い浮かんだ。

『一人で何も出来ない人間が他人を幸せに出来るのなら』

「達郎、お前はここで待ってろ。入れ違いになったら困る」
「え、お前はどうするんだよ」
「お前ならこの病院の事、知り尽くしてるだろ。そのお前が見つけられないなら、美月は病院の外へ出たんだ」
「なんでっ」
「本人に聞くしかないさ」

 当てなんてあるはずもない。
 それでも美月を探すため、修平は病室の外へ飛び出した。





 二人でよく散歩をした土手には見当たらなかった。
 通りすがりの人を捕まえては車椅子の女の子を見なかったかと聞くが誰もが首を振った。
 当てもなく走り回り病院からどんどん遠ざかっていく。

 くそっ、なぜだ。
 車椅子ならスピードはでないし、絶対に目立つはずなのになぜ誰も見ていないんだ。

 気付けば以前に十字架のペンダントを買った商店街付近まで来ていた。
 祈るような気持ちで周囲の人々に声をかけるが誰も見ていないという。
 絶望に肩が落ちかけたその時、

「車椅子の女の子?」

 声の方を振り向くと、コンビニから飲み物を手に出てきたタクシー運転手がこちらへ近づいて来る。

「知ってるんですか?」
「その女の子はあれかい? 足が――」
「その子ですっ!! どこで見たんですかっ!!」
「見たというか。病院前でその子を乗せたよ」

 道理で目撃者がいないはずだ。
 修平はタクシーの可能性を考えていなかった自分の愚かさを呪った。

「どこですか。彼女をどこで降ろしたんですか?」
「ちょ、ちょっと。お兄さん、落ち着いて」

 縋るように肩を掴む修平に、タクシー運転車は狼狽気味だ。

「分かった。お嬢さんを送ったところまで乗せてってやるから」
「本当ですかっ?!」
「ああ。ワシも車椅子の子が一人ってのが気になってたしな、来な」

 言われるままにコンビニ前の駐車場に止めてあったタクシーに乗った。






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