二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第三章 Road−第03話






「しゅーちゃん」

 そう言って抱きつこうとした亜矢を、顔面わしづかみにして止める。

「……あれ? 祐介さん」
「寝ぼけてんじゃねぇ」

 そのまま、ボスッと亜矢の頭を枕に叩きつける。

「酷いなぁ。もうちょっとやさしく扱ってよ」
「寝ぼけて違う男の名を呼ぶ女をやさしく扱えるか」
「もう、しゅーちゃんはそんなんじゃないったら。知ってるでしょ」

 祐介は亜矢を背後から抱きしめた。

「せっかく、起きたんだ。もう一回しとくか」
「いいよー」

 亜矢は祐介の肩越しにバッグの中をあさろうとするが、その手を太い腕が掴む。

「いったろ。俺の時はそれはなしだって」
「もー、私だけ飲むんだから良いじゃない。
 さっきも飲まないままだからしゅーちゃんと間違えたんだよ」
「いいから。それとも何か? そいつを使わなきゃ俺相手じゃ不満だってのか?」

 亜矢をバッグから引き離し、ベッドに押し倒す。

「わー、祐介さん。ケダモノー」
「野郎なんてみんなそんなもんだ」

 祐介は亜矢に答えながら、一瞬だけ彼女のバッグに目をやった。

 ウィッチか。あいつ、面倒なもん流行らせやがって。





「予想してたから、今日は休もうかと思うとったんやけどなぁ」

 校舎裏で健二は沈痛そうに目尻を押さえていた。

「それでも来たって事は一応、話を聞くだけは聞いてくれるって事だろ」

 修平の言葉に健二はかなわないとばかりに肩をすくめた。

「で? 今度は何だ? 昨日と同じ内容ってのは無しや。
 いくらなんでもそれを続けるようじゃ俺も付き合いきれん」
「同じかどうか、正直微妙な所だけどな。お前が見かけたって言う亜矢の居場所を教えてくれ」
「……よーするにウリやってる現場って事か?」
「そうだ」

 健二は額に手をやってため息をついた。
 分かってる。こいつは諦めない。
 昨日、健二は修平をごく普通の学生と評したが、実は内心ではそんな事は思っていなかった。
 何もなかった時はそうだった。
 だが、北大路美月との付き合いがこいつを変えた。
 もし、健二が教えなかったら、自分の足で探しに行くだろう。
 危険を承知で。

「分かった。俺の負けや。教えたるわ」
「本当か?!」
「ただし、や。筋だけは通させてくれや」
「筋?」
「昨日言うたやろ。俺らはごく普通の高校生やって。
 俺がごく普通かはともかくとして、ドラッグパーティーの日時と場所を知っとるのを変に思わんかったか?」
「それは……思わなかったと言ったら嘘になるけど、お前にそっち方面の付き合いがあるのかと思ってた」
「そうや。あの街で何かと世話になっとる人がいてな、頼み込んで教えてもろたんや。
 お前、亜矢ちゃん見つけたら当然連れ帰ろうとするやろ?
 けど、ウィッチ絡みや。運よく亜矢ちゃんの家まで無事連れ帰っても、しばらくしたら両親が行方不明なりかねんし、世話になっとる人にも迷惑がかかりかねん。
 まず、その人を通させてもらうで」
「仲介……って事でいいのか?」
「せやな。元々、それが本業の人やからな」

 修平は少し考えたが、すぐにこれは考える事ではないと思い直した。
 亜矢を連れ帰る事だけを考えていたが、その後の事にまでは思い至ってなかった。
 何にしろ、亜矢の現状についてより詳しい情報が手に入るかもしれないのだ。
 むしろ、ぜひ会うべきだろう。

「分かった。その人に会わせてくれ」
「忙しい人やけど、なんか知らんが俺の事気にいってくれとるから、時間は割いてくれるやろ。
 ただ、どうしても遅い時間帯になるのは避けられんやろうから、週末でええか?」
「ああ、かまわない。いまさらあせってもどうにもならないのは昨日のお前の説明で分かったからな。
 一歩、いや半歩でも一ミリずつでもかまわない。亜矢との差を確実に詰めていく事にする」
「まったく、昨日までと別人やな。とりあえず、連絡はとってみるから決まったら携帯に電話するわ」
「頼む」






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