二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第三章 Road−第04話
「遅いな、健二の奴」
夜の街で修平は待っていた。
電話では合流してから、健二が世話になっているという人物に会いに行くはずだったが。
「遅刻するんじゃないのか? それともその辺は大らかな人なのかな」
ジャケットのポケットに無意識に手をいれると金属の冷たい感触が肌に伝わる。
取り出すと、それは亜矢にプレゼントしたペンダントだった。
入れっぱなしにして忘れていた。
ペンダントを手で弄びながら、もうしばらく待つと、健二の声が聞こえた。
そちらを見ると、こちらに向かいながら手を振っている健二と見知らぬ男性がいた。
「悪い悪い。電話で連絡入れようと思うたけど、そこまで遅れる訳でもない思てな」
「それはいいけど……、この人は?」
「ああ、この人が俺が世話になっとる人や。ここに来る途中偶然おうてな、それで遅なってもうたんや」
言われてその人物を見る。
カジュアルなスーツを身にまとっているが、えも知れぬオーラを全身から発していて、カジュアルといった雰囲気ではない。
「田神祐介だ」
「あ、速水修平です。はじめまして田神さん」
「祐介でいい、立ち話もなんだから場所を変えるか。そこらの喫茶店でいいか?」
「あ、はい」
祐介の目が修平の持つペンダントを目にしたその時、一瞬鋭い眼光を放ったがすぐに視線をそらした。
修平にはその意味を図りかねたが、反射的にペンダントをジャケットのポケットにしまった。
喫茶店で注文された飲み物が運ばれてきてから、祐介が口火を切る。
「まぁ、用件は健二から聞いてるが。その前に俺から聞きたい事があるんだが」
修平と健二が顔を見合わせた。
「なぜ、亜矢に拘る?
健二といい、そこの修平と言ったか? お前といい。
変なかかわり方をすれば怪我じゃすまないと健二には言い含めておいたはずだが。
そうだろ? 健二」
話を振られた健二は小さくなりながら、
「実はその亜矢ちゃんですけど、こいつの幼馴染なんですわ」
「ほう」
ジロッと修平の方を見る。
まるで品定めされているようだ、そう感じた。
「修平……ね。なるほど、お前が”しゅーちゃん”か」
「え? なんで」
「健二、説明してなかったのか?」
「……すんません。それだけは言いづろうて」
そして、健二は修平に向かって頭を下げた。
「すまん」
「って、なんだよ。健二。急に」
「亜矢ちゃん、ウリやってる言うてたやろ。祐介さんも時々買うとるんや」
「……え?」
改めて祐介を見る。
亜矢を買う。それはつまり亜矢を抱いた男と言う事だ。
「寝ぼけて時々俺を”しゅーちゃん”と間違える時があったからな、どんな奴か一度見て見たかったんだが、こんな形でお目にかかるとはな。
……もっとも、今となってはその”しゅーちゃん”も別物になっちまったが」
「それは、どういう意味ですか?」
「後で連れて行ってやる。自分の目で確かめろ。で、会ってどうするつもりだ?」
「それは……」
「もし、亜矢を連れ帰ろうとするなら、間違いなく無理だぞ」
「ウィッチをやっているからですか?」
「少し違う。単にウィッチを買って飲んでるだけ、あるいはそれでウリやってるだけならまだどうとでもなる。だが、亜矢は違う。あいつはコンパニオンだ」
修平は健二の顔を見るが、健二も首を振る。
初めて聞いたらしい。
「健二。こいつにウィッチに関しての説明はしたか?」
「一応、知ってる限りは」
「そうか。ウィッチに性的興奮作用があるのは聞いたか?」
「はい」
「ウィッチはこの街で流通こそしているものの、無分別にばら撒かれたりはしない。
あれの性的興奮作用ってのは特に男には強い効果があるらしくてな。そこら中レイプ犯で溢れかえっちまう。
いくら警察に金を流しても、見逃せる限度ってもんがある。世間の目があるからな」
そこまで言うと、祐介は頼んだ紅茶に口をつけた。
そして、ゆっくりとカップを置くと修平の目を見据えた。
「だからウィッチとセックスは必ずセットなんだ。
そして、セットである以上、売人はその相手を用意しておく必要がある。それがコンパニオンだ。
彼女達は客にウィッチを飲ませ、その上でのセックスの快楽の虜にさせる。勿論、客にウィッチを買わせる為だ。その為のドラッグパーティーであり、ウリも金よりウィッチの営業の為さ。
わかるか? つまりコンパニオンは売人にとって金の卵だ。それをみすみす手放すと思うか?」
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