二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第三章 Road−第05話
亜矢の所へ案内する。
そう言う祐介の後を付いていくが、ゴミ溜まりの裏道だったり廃材置き場を通ったりと悪路に修平は閉口した。
「健二、ほんとにこっちなのか?」
「ウリなんてこの街じゃ表通りではほとんどやってへんわ。表面さぇ取り繕っとけばキレイな街って事でみんな納得するやろ」
「まぁ、そんなもんだ。法の締め付けが厳しくなった今、警察は買収出来ても目の前の犯罪まで見逃してくれというのは無理だからな。それより」
祐介は足を止めて振り向いて修平を見た。
「お前、亜矢とはどんな関係だ?」
「え? だから幼馴染――」
「健二。お前に聞いてるんじゃねぇ。こいつに聞いてるんだ」
ドスの利いた声に健二も黙るしかなかった。
聞かれた修平はしばらく言葉を選んでいたが、もっとも適切だと思うものを選んだ。
「好きな女の子、です」
瞬間、祐介の拳が修平の鳩尾にめり込んだ。
呼吸が止まり、苦しさのあまり膝が落ちる。
さらに、修平の顔面に容赦のない膝蹴りが襲う。
「ゆ、祐介さん。何をっ!!」
止めようとした健二を振り払い、仰向けに倒れた修平の襟首を掴み、無理矢理頭を上げさせる。
「ウリやってドラッグに手を出すところまで堕ちるのを放っておいて、好きだ? 何を今更な事言ってやがるっ! ふざけてんのか、てめぇっ!」
「や、やめて下さい。祐介さん。事情があったん――」
「事情? そんなもん関係あるか! 今の亜矢の現状が全てだ、それがこいつの好きとやらの程度だ。高が知れたもんだ」
祐介が襟首から手を離すと修平の頭が落ちた。
健二が慌てて手を貸そうとしたが、しかし修平はその手を拒否した。
よろよろとしかし、自分自身の足で体を起こす。
「そうです。何を今更な話です。取り返しの付かない事は承知してます。
だからこそ、まだ取り戻せる物があるのならば、例え水一滴、砂粒一つでも残っているのなら戻してやりたいんです」
ハッと健二は祐介を見る。
思わず修平を庇おうとするが、しかし祐介軽く鼻を鳴らして踵を返した。
「夢見がちな王子様かと思っていたが。多少マシな奴のようだな」
言っておくが、今日いるかどうかは保障しねぇぞ。
そう前置きして出た開けた場所には、さっきまでの悪路の先とは思えないほど華やかなホテルのネオンと、多くの人がいた。
その方面にまったくの素人の修平にさえソレと分かるウリの女達が、行き交う男を誘っている。
祐介の後ろをついて歩きならが、時折手をのばしてくる女性達の手を交わしつつ、そして自然と足が止まった。
いた。
まるでドレスのような真紅の服を着て化粧もしていたが、それでもそれが亜矢だとわかった。
「亜矢っ!!」
頭には祐介や健二から聞かされた警告などは吹き飛んでいた。
ただ々々、亜矢の元へ駆けつけた。
亜矢が呼び声にこちらを向いた。
きょとんとした顔つきで彼女は言った。
「あのー、誰ですか?」
「……え?」
修平は言葉を失った。
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