二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第三章 Road−第07話






 多数のウリの呼びかけを無視して、修平はただひたすら歩いていた。
 何があっても諦めないつもりでいた。
 だが、まさか亜矢の中から自分が消されてしまっていたとは思いもよらなかった。
 どうすればいい?
 亜矢が修平の気持ちを拒絶したというのならまだ良い。
 だが、亜矢の現実に自分はいないのだ。
 だからといって今のままじゃ終れない。
 何の為に美月と別れた?
 何の為に美月を泣かせた?
 何かないのかっ!
 せめて自分に出来ることはないのかっ!
 悩み悩んで下を向きながら歩いていたので視界に足が見えるまで、前に人が立ちはだかっている事に気付かなかった。

「はぁい。お兄さん、暗い顔してどうしたの? 財布でも落としたの?」

 紫色に染めた髪が目立つ、自分より少し上くらいの女性。
 亜矢と似た感じのドレスのような服を着ている。
 何よりも男に媚びるような表情が、彼女がウリだと物語っている。

「悪いけど」

 そう断って、脇によけようとするが彼女は先回りして立ちふさがる。

「別に財布を落とした訳じゃないけど、もうちょっと金回りの良い大人をあたりなよ」

 さらによけようとしたが、その先も彼女は立ちふさがる。

「あたしにも好みってもんがあってね。
 それにあんたみたいな落ち込んでそうなコ、元気にするのが好きでね」

 どうあっても、通す気はないらしい。
 自暴自棄になってるな。
 自分で分かっていても、口にした。

「分かったよ」

 そして、彼女に誘われるまま近くのホテルに入っていった。





「おいおい、大丈夫か」
「大丈夫、だいじょ、ぐぶ」
「どこが大丈夫なんだよ、たく」

 トイレで吐き気に苦しんでいる亜矢の背を祐介は優しく擦った。

「だいたい、お前は未成年のクセに飲みすぎなんだよ。お前が酒に強いのは認めるけどな、それでも――」
「お酒のせいじゃないよ」

 荒い息をつきながら、それでもしっかりと主張する。

「酒のせいじゃないならなんなんだよ。つまみでも腐ってたのか?」

 ふと、祐介は亜矢の手が下腹部に当てられているのに気付いた。
 吐き気に苦しみながらも、亜矢は幸せそうに笑っている。

「お前、まさかっ」
「病院には行ってないけど、女のカンが当たりだと言ってるよ」
「あの馬鹿、女の管理も出来てないのかっ!」
「東石さんなら、ちゃんとピル配ってるよ。しつこいくらい念を押してくるし」
「そーいう問題じゃねぇだろ」
「どうして? これでしゅーちゃん産んであげられるよ」
「……なに? どういう意味だ?」
「ウィッチ飲んでも空想だけだもんね。だからしゅーちゃんを作る事にしたの」

 祐介の背中に薄ら寒いものが走った。

「お前、まさかわざと」
「あ、大丈夫。祐介さんの子じゃないから。だって祐介さんだけがコンドームしてたものね。
 でも、誰の子でも同じだよ。しゅーちゃんだから。
 私は愛せるし、きっとしゅーちゃんも私を愛してくれる」






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