二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第三章 Road−第09話
夢だと思った。
美月がいる。
美月が俺を覗き込んでいる。
まるで以前と逆じゃないか。
手を伸ばそうとして、全身に痛みが走る。
「っ?!」
「修平君、気がついたのね!」
「美月ここは」
「何言ってるの、病院に決まってるでしょ。あなた丸一日眠ってたのよ」
「病院? なんで?」
記憶を遮るもやが薄れていく。
そうだ、俺は亜矢を探しにいって。
そして、焔という女とホテルに入って。
それから……
「っ?!」
「無理しないで寝ててよ。深刻な怪我はないけど、全身深刻じゃない怪我だらけなのよっ!」
なんだそりゃ
笑い飛ばそうとしたが痛みのため無理だった。
「美月、そもそも俺はどうやってここに来たんだ?」
「伊田君が運んで来たのよ」
「健二が? そうか」
恐らくはコンパニオンと揉めた事が祐介の耳に入ったのだろう。そして、祐介から健二へと連絡がいったのは想像に難くない。
「礼を言っておかないとな。もっともこの病院を選んだのはちょっと文句を言いたい気分だ」
「なによっ、私には会いたくなかったって言うの?」
「どの面下げて会えるって言うんだ」
「修平君、あなた……」
修平の頬を涙が伝った。
「健二が言ってた、無力は罪じゃないと。
でも、違う。無力なのは罪だ、非力なのは悪だ。おれは何も出来なかった。
まさか、存在すら抹消されていてたなんて」
美月は何も尋ねてこなかった。
ただ、黙って両手を広げた。
修平は美月の胸で涙を流し続けた。
「よぉ、元気か」
「これが元気に見えるのか。美月から連絡がいったのか?」
「ああ、医者は深刻な怪我はないって言うてたけど、お前全身ボロボロで道路に投げ出されてたんやぞ。
マジで死んじまうかと思ってあせったわ」
「美月曰く、全身深刻じゃない怪我だらけだそうだ」
「それで済んで幸運やったんやぞ。お前、コンパニオンに手をかけたんやってな」
「やっぱり、祐介さんが?」
「ああ、助けに行ってやれってな。立場上、あの人が助ける事は無理や言うとったからな」
「十分だよ。……いや、そうでもないか。振り出しどころかマイナスだもんな」
「もう……ええんちゃうか。修平、お前は十分がんばったで。
亜矢ちゃんの事は、残酷なようやけど亜矢ちゃんが選んだ道や。
お前が全ての責任を取る事ないで」
「責任……か」
修平は天井を見つめた。そこに何かがあるかの如く。
「今の亜矢にはもう俺が責任を取る余地すらないんだ。
だって存在すらしていないんだぜ、俺」
「修平……」
「なぁ、俺は何に対して責任を取ればいいんだ? 取らなくていい責任の所在はどこにあるんだ? もし、知っていたら教えてくれよ、健二」
健二にはそれに対する答えは持ち合わせていなかった。
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