ダークプリーストLV1 第三章−第07話
「改めて名乗ろう。ワシは元第6師団遊撃部隊長ワルド。
槍の扱いは戦死した前隊長に教わったものだ。流派は知らん。……聞いておくべきだったと後悔してるがな。
そして、部隊では。いや、第6師団では唯一の生き残りだ」
見物人のさらに遥か後ろ、ゴーストとスケルトンはワルドの言葉に驚いていた。
「第6師団って、光の陣営の例の兵器。あれの目の前いた連中じゃないか?」
「よー、生きてたな。あれの攻撃範囲の他の師団も全滅したいうのに」
「遊撃部隊って事でたまたま良い位置にいたのと。後は……運だな」
「大した運やのー」
「本人は幸運だと思ってなさそうだがな。師団唯一の生き残り、か」
「まぁ、そりゃ歪みもするわ」
ワルドに応えてマドカも名乗る。
「私はマドカ。司教様に救われた異界のマレビトであり、今は助祭の身。
棒術は私の世界から持ち込んだもの。流派は……」
そして、マドカは周囲を一度見渡す。
「流派はエスファアルミス教会流棒術」
マドカの棍が軽く弧を描く。弧から円へ。
風切り音がどんどん大きくなっていく。
「さて、お互い名乗りもおわった事だし。始めるとするか」
「はい」
そして、マドカにとって、アースに来て以来初めての全力を出し切る事になる試合。いや、決闘の火蓋は切って落とされた。
先に仕掛けたのはワルド。
単純な、しかしクイックモーションの素早い突き。
マドカは槍の先、穂の根元を棍でさばこうとする。
しかし、槍の軌道は変わる。マドカではなく棍を切断すべく横なぎの動きに移行する。
武器破壊。ワルドが戦場で培った技術の一つだ。
むやみに敵自身を狙うよりも、効果的に無力化出来る。
しかし、ワルドの目論見通りにはいかなかった。
槍が横なぎの動きに移行した途端、棍先がまるで槍の穂をかいくぐるように下へ沈み、さらには切っ先をかわした後に浮き上がり、あろう事かかわしたはずの槍の動きに追いつき上から穂の根元に叩き付けられる。
「なっ?!」
ワルドは驚きつつも、地面を突き刺しかけていた槍を咄嗟に引く。
武器破壊を回避するまではまだいい。
しかし、その上で更なる追撃や変化を封じる為に槍をさばいた。
そんなもの単に反射神経や才能等では説明が付かない。
槍による武器破壊という行為。それそのものに対する対処法が、確立されていたとしか考えられない。
「どうしました? ご覧の通りの木製武器です。刃のついた武器や重量武器と相対した時の心得ぐらいは当然ありますよ」
日が沈み赤黒い空を背に、当たり前のようにマドカは言う。
簡単に言ってくれる。ワルドは内心で苦笑いする。
戦場では相手の武器など、千差万別。それを経験しているワルドが言うのならともかく、ワルドの半分も生きていない小娘が言うのだ。
恐らく、棒術の流派そのものが戦場を前提としたものなのだろう。
もっとも、マドカの歳でそれを体現してみせた事は驚嘆に値するが。
しかし、なんだろう。この胸のうちに込みあがる、懐かしい気持ちは。
「だったら、こういうのはどうだ?」
今度はマドカの足元を狙う。払われぬよう、素早く連続で突いていく。
しかし、それは軽やかにかわされていく。
いや、もはや舞うようにと言っていい。なぜなら、マドカは身体を回転させながら、それを避けていたのだから。
当然、ワルドに無防備な背中を何度も晒す事になる。
反射的にその背を突きかけたワルドの脳裏に、蘇りつつあった実戦でのカンが告げた。
来るっ!!
背中を突くどころか、ワルドは下がった。
唐突にマドカの身体が跳ね上がった。横軸の回転をしながら、身体を縮めて体勢を縦に変えていく。
ワルドはさらに一歩下がる。
その鼻先をマドカの全体重を乗せた打ち下ろしの棍が掠めていく。
もしも、無防備だと思って背中を狙っていたら、視界の外に消えたマドカの一撃を避けられなかっただろう。
さらにマドカの攻撃は続いた。
© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved