ダークプリーストLV1 第五章−第02話






 朝の棒術修練を終えたマドカは司祭服に着替え、祝福の務めに出る前にアルミスへの祈りを捧げようと礼拝堂に入った。
 先客がいた。
 すっかり回復したエースとエスターク、アネットの三人だ。
 すでに話は終わったらしく、エースは二人に深々と頭を下げた。
 そして、礼拝堂を出ようとして踵を返した時、マドカの存在に気付いて駆けよる。

「お世話になったな。マドカおねえ──いや、マドカ司祭」
「急にどうしたの? 前の呼び方でいいわよ」
「仕方ないだろ。親父が死んだ以上は俺が族長だ。甘えた呼び方なんて出来ないよ」

 ついこの間、マドカの胸で泣いた少年はどこへ行ってしまったのだろう。
 いま目の前にいる少年は子供ではなく族長になってしまった。
 まどかの表情を見て、エースは笑みを浮かべた。

「そんな顔するなよ。俺は自分でちゃんと族長になる事を選んだぜ。後悔もしてない。立派に最後の族長として務めを果たす」

 じゃぁな、そう言ってエースは礼拝堂を出て行った。
 マドカにはエースの言葉が気にかかった。
 最後の族長?
 ダークエルフの集落での葬儀の際にもそう言っていた。

「司祭長。彼と何の話をしていたんですか?」
「取り立てて、特別な事は。これからの事とかを聞いただけです」

 それは嘘だ。
 なぜなら、司教が笑っていなかったから。
 だが、司祭長が話すとは思えなかった。
 だったら、話せそうな相手を探すまでだ。

「祝福の務めにでます」

 恐らく、マドカが不審に思っている事には二人にも気付かれているだろう。
 だからどうした。
 己が感情に従え。
 自らの道を行くまでだ。






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