ダークプリーストLV1 第五章−第03話
「そう言われてもなぁ」
道路補修工事に雇われていたデイトン達を捕まえる。
この人達はお金を稼いでどうする気だろう?
そんな疑問もわいたが、今は横へ置いておく事にする。
「朝、ワルドさんと一緒に何か話してたでしょ。それを教えて下さいと言ってるだけですが。何か都合が悪いんですか?」
「逆に聞きたいね。お穣さんに何の関係があるのかな」
マドカの上を行ったりきたり、グラムが石材を運んでいる。
……意外と力持ちのようだが、落としたらどうする気だ。
「ダークエルフの集落の事を話していたでしょう。何かがおかしいって」
グラムが舌打ちする。いい耳してやがる、と。
「でも、もう終わった話や。少なくともお嬢ちゃんにとっては」
冗談ではない。
集落への襲撃は予期出来るものではなかった。
しかし、今度は違う。
エースの言葉。そして司教達の態度。
もう見送った背中を失う思いはしたくない。
デイトンに詰め寄ろうとしたマドカの背に声がかかった。
「女、子供が少なかったんだ」
「ワルドさん……」
話と考えに気を取られて後ろにいる事に気付かなかった。
「おい、いいのか?」
「いいも悪いも。マドカはこうなったら諦めねぇよ」
「……そやなぁ。ワイらが黙ってても結局どこからか聞いたらそれまでやからなぁ」
「しらねぇぞ。どうなっても」
さじを投げたとばかりにグラムは仕事に没頭する。
「ワルドさん。さっきのどういう意味ですか」
「そのままさ。穴の中の死体に、女子供が極端に少なかった。墓掘ってた連中も気付いてただろうな」
「ようするに皆殺しじゃなかった訳や」
「じゃ、じゃぁ。まだ生き残りがいるんですねっ」
マドカの声が若干明るくなったが、逆にデイトンとワルドの影が濃くなった。
「え?」
「だから言ったろうが。どうなってもしらねぇって」
グラムが耐えかねたのか、混ざってくる。
「……恐らく、売られたんやろな」
「正確には、売る為に拉致したって所だ」
「う、売るって」
「……奴隷商人だ。その先は……想像つくだろ、マドカ」
「奴隷って、そんな事。光の側では許されてるんですかっ?!」
思わず往来であるにもかかわらず声を荒げる。
通行人が何事かと注目している。
「マドカ、場所を変えるぞ」
「そのほうがええな」
「……どうでもいいけど職場放棄だぞ」
4人は人がいない路地裏に回る。
「さっきの質問の答えだが、建前上は許されていない」
「だったら――」
「この爺さんが建前上っていっただろ。
大戦で犯した罪の贖罪って大層な理由で、売春宿やら重労働、死の危険が高い仕事に就かされてる闇の側の住人が結構いるんだ」
「……大戦の罪って、50年も前の話でしょ。それに今回さらわれた人達ってまだ生まれてもいないんじゃ」
「お嬢ちゃん。光の側にはな、闇の側ってだけで罪と考える奴らが結構いるんや。
そもそもダークエルフの集落が襲われた事自体がそうやろうし。
光の側の全てがそうとはいわんけどな」
「デイトンが言うとおりだ。それにな、マドカ。言っただろう。
戦争は終わってないって」
「でもっ、そこまでわかっているならなぜっ、助けに――」
「覚悟はあるかい、お嬢さん。エスファを巻き込む覚悟が」
皮肉げにグラムが言う。
「エスファを巻き込む?」
「相手が光の軍だという事を忘れたか? 拉致された連中を助けるって事は光の側に弓引くって事だ。ましてや、エスファほどの規模の街はそうはない。絶好の攻める口実になるだろうぜ」
「そんな……、でも、昔エスファが光の軍にやられた時は教会や自警団が反撃したんじゃ」
「エスファだからだ、マドカ。地名じゃなく街としてのエスファ。
だが、ダークエルフの集落は街に含まれていなかった。
だからこそ、狙われたのかもな」
その時、マドカの脳裏にエースの言葉がよみがえった。
立派に最後の族長として務めを果たす。
エースはたった一人で拉致された人々を助けようとしているのだ。
エスファを巻き込まない為に教会に助力を請う事もせず。
恐らく礼拝堂でエスターク達といた時、その話をしていたのだろう。
だから、エスタークは笑っていなかったのだ。
「……分かりました。もういいです」
マドカは踵を返して表通りに出た。
そして、教会に向かって歩いていった。
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