ダークプリーストLV1 第五章−第07話






「で、やり過ごせたのは間違いないんだな? マドカ」
「はい。さすがに光にも闇にも属さない神については知らないようでしたから」
「不幸中の幸いやったな。お嬢ちゃん以外やったら完全にアウトやったで」
「まぁ、疑われているなら尾行されていただろうし、それに気付かないマドカじゃないからな。だが、ワシの考えが少々うかつだったようだな」
「いえ、少なくとも私が下りた方には沢があって足が取られやすい場所でした。少なくともあそこを通るのは賢明じゃないでしょう」

 もう空が赤く焼けている中、車座になってマドカ達は最後の打ち合わせをしていた。

「双剣の男か、そいつが聖堂騎士の可能性が高いが、わざわざ本隊を離れてこっち側に来ているのがひっかかる。そいつは腕が立ちそうだったか?」
「恐らく。ワルドさんと初めて会った時と同じ感じがしました」
「……面倒だな」
「あ、でもたぶんソイツなら本隊の方へ戻っていったぜ」
「確かか?」

 ワルドはエースを見る。
 抜き身の刃のような目をしたワルドにたじろぎながらもエースは頷いた。

「双剣の奴なんてそうはいないだろ? 他は剣と盾だし。馬で戻っていくのは見えた」
「僥倖だな。どうやら魔術師もいないようだ。司祭らしいのが一人いたが、それくらいなら問題ないだろう。
 ワシとマドカで一気に制圧する。見張りがいるだろうから、グラム。お前が気を引いてくれ。エースは姿消しで先に馬車の中に入って拉致されたダークエルフ達の安全を確保しろ。
 間違っても怒りや恨みで我を忘れるな」
「分かってる。今は仲間を助けるのが先決だ。俺は族長なんだから」
「その通りだ」
「ワイはどうすりゃいいねん」
「デイトン、お前は武器を持って――」

 デイトンの右手には両刃の長剣、左手には身の丈近い高さの楕円形状の盾を持っていた。盾は金属製で重みで骨が折れないかと思わせるほど、重厚な感じであった。
 どこにそんなものがあったというのか。

「ただのスケルトンじゃないとは思っていたが……。まぁ、いい。だったら、ワシらと一緒に制圧だ」
「了解」
「出来れば殺さないようにお願いします」
「?! あいつらに情けをかける気かよっ」
「違うエース。あなたが元々一人でやろうとしたのは街に迷惑をかけない為でしょう? もしここで彼らを皆殺しにしたとして、変に思った本隊が彼らを発見したらどうすると思う?」
「あ……」
「憎むなとは言わない。でも、同族を救出したとしてもう集落には戻れないでしょう? またいつ襲われるか。
 だから街で、エスファで生きる事になる。そのエスファを危険に晒すリスクは抑えないと」
「……分かった」

 ワルドは膝を打った。

「決まったな。完全に日が落ちたら決行する。今の内に丘から降りるぞ」

 各々が得物を手に立ち上がった。





 歩哨に立っていた兵士が欠伸をした。

「おい」

 もう一人の見張りが注意する。

「悪い々々。けどよう、意味あるのか。これ」
「なんで?」
「エスファの連中なんて、街に引きこもって出てこないだろ? その上今回は街の外の連中だぜ? 何が襲ってくるって言うんだよ」
「言いたい事は分からないでもないけどよ。そうだな、例えば……」

 何か例を考えようと上を向いた兵士は、真上に浮かぶそれに気付いた。

「例えば、あんなのとか」
「は?」

 愚痴を言っていた兵士も上を見る。
 そして、大量の砂が落ちてきた。

「うわぁぁぁぁっ?!」
「目がっ! 目がぁぁっ!」

 突然騒ぎだした見張り達に寝ていた兵士も起き上がり飛び出した。

「おいっ、どうしたっ」
「何があったっ」

 反対側に立っていた見張りも騒ぎに駆けつける。
 その後ろから忍び寄る気配に気付きもせずに。

「っ?!!」

 唐突にアポミアの司祭が、言葉にならない悲鳴を上げて倒れた。

「な、なんだっ」

 風切り音が周囲に鳴り響く。
 それは、兵士たちにとっては悪夢を見ているようだった。
 月明かりを背にワーウルフと、司祭服に似た風変わりな衣装を着た少女。
 夜の闇のせいではっきりと見えないが、彼らが使う長柄の何かが兵士達を次々と倒していく。
 ある者は破城槌にでも衝突したように吹き飛び、ある者はまるで数人に囲まれて殴られでもしたかのように左右に何度もふれて地に伏した。

「なんなんだよ、いったい」

 曲者の正体を見極めようと距離を取り、剣を構えた兵士。
 その耳に鈴の音のような澄んだ音が聞こえた。同時に手が軽くなっていた。

「へ?」

 兵士が自分の剣を見るのと、その根元から先が地面に落ちたのはほぼ同時だった。

「な、な、な、な?!」
「ごめんなぁ、ワイ手加減苦手やねん。新しいの買うてくれや」

 振り返るよりも先に後頭部に盾の一撃を受けて昏倒した。






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