ダークプリーストLV1 第六章−第02話
その頃、マドカはダークエルフ達の職探しに奔走していた。
ほぼ全員が女子供だ。
狩猟や山菜、木の実の採取で生きて来た彼らだが、狩りが出来る大人が激減した今、これまで通りという訳にはいかない。
今は生活に必要なものは、教会を通じて寄付された食料や衣類で賄っているが、いつまでもそういう訳にはいかない。
「ふむ、丁度もう少し手広くやってみようと思っていた所だ。二人、いや三人程度ならかまわんよ」
「ほんとですかっ。当然未経験ですけど」
「うむ。そもそも経験者など、他のパン屋くらいのもんだ。未経験、大いに結構」
「ありがとうございます」
「じゃぁ、希望者には直接ワシの店へ来るよう伝えてくれ」
コボルトの店主はそう言って店の奥へ戻っていった。
その背中にもう一度頭を下げてマドカは再び走り出した。
先程のコボルトのパン屋もそうだが、マドカはこれまで直接知り合った街の住人達に声をかけてまわっていた。
幸い、好意的な返事がいくつも返ってきてマドカの足取りは軽かった。
そして、また新たな職場へと行く。
「すいませーん」
しかし、いくら気持ちが上向こうと身体には疲労は蓄積する訳で。
リーリスと待ち合わせをしていたミガの食堂につく頃にはさすがに千鳥足気味になっていた。
「よくやるわねぇ。教会でも職の受け入れ先を募ってるってのにさー」
呆れたようにリーリスは言う。
「分かってるけど。やっぱり面と向かってお願いして、返事もらった方が安心できるから」
「苦労性」
ぼそっとリーリスが呟く。
「何か言った?」
「なんでもないよ。それより走り回るのはいいけど、傷の方はどうなのさ」
傷と言っても怪我をした訳ではない。
ダークエルフから負傷移転の法術で移した傷だ。
「ちゃんと完治してるわよ。さすがに跡は残っちゃったけど」
リーリスは深くため息をついた。そして、まどかの顔を見る。
傷を移す際に両手以外と強く意識した為、確かに両手に傷はないが、いくつかの傷が顔にまで及んでいた。
「別にいいじゃない。私達はお嫁にいくわけじゃないんでしょ」
「それでも、普通は顔に傷できたら少しは落ち込むもんだけどね。ほんと馬鹿ねぇ」
いいつつもリーリスの口調に責める響きはなかった。
「それが男性なら男前になったって言うんだろうけどねぇ」
「あ、ミガさん」
店主ミガ自らが料理を運んできた。
「マドカ、うちでも何人かいけるよ。ていうか子供達に運ばせてるからこの規模だけど、大人が来てくれるんなら、向かいの空家を潰してウチの店にしようかねぇ」
「……マヂで言ってる、ミガさん?」
「大真面目だよ。昼はまだいいほうだけど、夜なんて外で待ってもらってる事もあるくらいだからね。ゆくゆくは料理できる子とか育てたいねぇ」
「結構野心家だったんだね、ミガさん」
「夢は大きく持てって言ってたのはリーリスじゃなかったかい?」
「……あれは子供達にいったんですけどぉ」
二人のやり取りにマドカはクスクス笑っていた。
© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved