ダークプリーストLV1 第六章−第03話






 それは夕方の棒術の鍛錬をしている時だった。
 突如、道場の戸を空けてコボルトが飛び込んで来た。
 マドカが知っている顔だった。
 教会近くの薬草店の店員だ。
 司祭には治癒の法術が効かないのでよく買いに行っている。
 しかし、様子がただ事ではない。

「どうしました?」
「ひ、光の軍が」

 マドカの背筋に冷たいものが入った。

「光の軍がどうしたんですか?!」
「せ、攻めてきてるんだ」

 コボルトが道場の出入り口の方を指差す。
 マドカは道場から飛び出した。
 遠くの方に煙がいくつも上がっている。
 思わず駆け出そうとして、ワルドに羽交い絞めにされる。

「ワ、ワルドさん。放してっ」
「バカヤロウ。一人でどうにかなる数かどうか、ここからでも分かるだろう。
 たぶん、前の奴らの本隊だ。いや、それどころじゃねぇ。大幅に兵を増員してやがる。
 奴ら何を考えてやがる」

 そこへグラムが飛んできた。

「おい、様子が変だぞ」
「変?」

 ワルドの羽交い絞めから抜け出したマドカが問い返す。

「ああ、奴ら田園の端で野営の準備を始めてやがる」
「なに?」

 ワルドも眉を潜める。

「エスファの目と鼻の先で野営なんて何考えてるんだ?」
「俺に聞くなよ。だが、弓もいやがるし、魔術師に司祭、ハイエルフまでいやがる。
 本気でエスファを落としに来てるとしか思えねぇ」
「そんな……」

 遠くの黒い煙に、マドカは呻いた。





 真夜中、司教室は臨時の会議室になった。
 教会の代表としてエスタークとアネット。
 そして、街からは各区画の代表と種族を束ねる者。エースの姿もあった。
 彼らはある重要な事を決めようとしていた。
 かねてより、エスターク名義で文書で通達され、すでに何度も協議を重ねた事だった。
 それはエスファという存在の分岐点とも言えるものだった。

「では、皆さん。決定という事で異論はありませんね?」

 だが、皆が頷くその前に扉が乱暴に開かれた。
 リーリスだった。

「司教様っ、司祭長っ。光の軍から要求が来ました!!」

 その場にいた全員が立ち上がった。





 リーリスが礼拝堂に案内するとそこには、治癒の法術を受けているゴブリンがいた。
 かなり重度の傷を負っているようで体力回復の法術を行っている司祭もいる。
 まだ治療の途中のようで全身のいたるところに特徴的な裂傷があった。
 それは鞭の跡。恐らくは拷問されたのであろう。
 リーリスが近くにいた司祭から封書を受け取り、エスタークに手渡した。
 封書には蝋で封印してあり、まだ誰も読んでいない事を示した。
 エスタークは無表情に封筒上部を破り捨てた。
 中の文書も一部やぶれたが、彼は気にとめるようすもなかった。
 軽く目を通し、そしてそれをアネットに手渡した。
 アネットはそれを目にして思わず口ごもってエスタークを見たが、彼は無表情に頷いた。
 彼女は意を決して読み上げる。

「闇の側の愚か者共に告げる。刻限は夜明け。それまでに先日我が軍を傷つけた者を差し出せ。そうすれば今回だけは引き上げてやる」

 それが誰を指しているかは明白だった。






© 2013 覚書(赤砂多菜) All right reserved