ダークプリーストLV1 第六章−第05話






「聞きたい事があります」

 マドカの言葉にリューイはあっさり頷いた。

「いいぜ、なんでも聞きな。アポミアの聖堂騎士として懺悔以外なら聞いてやる」
「ダークエルフの集落であの無情な行為。指示したのはあなたですか?」
「そのとーり。俺だ」
「理由を伺っても?」
「理由?」

 リューイは不思議そうな顔をする。

「理由ってなんだ? 悪を処罰するのに理由が必要なのか?」
「……いえ、どうやら質問を間違えたようです」
「じゃ、なんだ?」
「あなたは正義ですか?」

 再びリューイは不思議そうな顔をした。

「それは質問か? 確認か?」
「前者です」
「見込み違いだったか。かなり出来る奴って踏んだんだが、こんなにも愚かとはなぁ」

 それはそれは憐れそうにマドカを見た。

「正義だ」
「そうですか」
「他に質問は?」
「いえ。あったとしてもその答えは私には無価値のようです」
「そうか」

 リューイは特に気にした風でもなかった。

「では――」

 始めるか。そう続けようとした瞬間、あたり一面を土煙が舞った。
 グラムの魔術によるものだ。
 そして、戦闘が始まった。





 マドカは移動しようとしてすぐ足を止めた。
 視界を奪われてなお、正確にマドカの位置を把握している者がいる事に気付いたからだ。
「汚らわしいダークエルフどもを逃がしたのはお前か?」

 土煙のせいでシルエットぐらいしか把握できないが、その言葉で相手が何者か把握出来た。

「彼らを逃がしたのは間違いなく私達です。が、彼らのどこが汚らわしいのですか?」
「どこが? あの腐った土のような肌、同じ体形なのになんでやつらは生きていられる? 我らには耐えられない」
「だったら、見なければいい。この辺境に追いやられ平和に暮らしていた彼らを」
「冗談はやめてよ。生きてるって思うだけで寒気がする」

 どうやら複数のようだ。キレイ好きのハイエルフは。
 タレントは超感覚。恐らくこの土煙などかれらには何の役にもたっていないだろう。
 ふいに土煙の中の人影から何かが伸びてきた、それは棍に絡みつく。鞭だった。

「馬鹿ね、ヒューマンのあなたにはこの煙幕は裏目ね」

 しかし、それには応えずマドカは質問する。

「使者のゴブリンを拷問したのはあなたですか?」
「使者? 確かにまだ生きてたのに封書を届けさせたけど。他は死んじゃった」
「そうですか」

 鞭を引く力が強くなる。同時に複数の気配が周囲に感じられる。

「その武器を封じたらあなたに何も出来ないでしょう? おとなしく死ね、闇の側の住人」

 一気に鞭が引かれた。同時に周囲の気配が急接近する。
 マドカは棍から手を放した。

「え?」

 呆けたような声。
 引っ張られた棍が水平になるように軽く蹴り上げて調整し、棍端を蹴りつける。
 声もなく、鞭の主は倒れた。
 鞭が外れた棍を掴んででマドカは軽く弧を描く。そして弧は円に。
 風切り音がどんどん高くなていく。
 周囲の気配に動揺が走る。
 マドカは円から線へと転じて気配に向かって放つ。
 手ごたえを感じて線を弧へ、弧から円へ。

「な、なぜ。ヒューマンに我らの位置が分かる!」

 彼らはワルドとは違う。ワルドは己のタレントを我が物として使っていたものを。

「私にはむしろ何故と問うあなた方が分かりません」
「どういう意味だ?」
「あなた方のタレントは五感の増幅。言葉を返せばただそれだけ。ただ、五感を高めたものを超感覚というのなら、私にも使えますよ」
「なっ」

 円から弧を放つ、また一人倒れる。

「もっとも私の場合はただ鍛え高めただけに過ぎないですが」





 ワルドはタレントをすでに発動させていた。
 相手は馬上の兵士。
 彼らの持つ槍が次々と伸びてくる。だが。

「遅いっ」

 戦闘において高所からの攻撃は優位。故に兵士達は自分達の優位を信じていた。
 だがその考えは、彼らより高く跳躍したワルドによって打ち壊される。
 ワーウルフのタレントは身体能力の上昇。それを優位さに酔って忘れていたのだ。
 次々と矢継ぎ早に放たれる線が、馬上の兵士を打ち抜いていく。





「まるで飴にたかる蟻やな」

 周囲を囲む歩兵の数に思わずそんな感想がもれる。
 絶えず押し寄せる無数の剣を盾で防ぎ、剣で切り返す。
 剣の腕ではデイトンが上回っていたが数が問題だ。
 デイトンにはスタミナというものが存在しないが、数は偶然を産む。
 現にいくつかの刃が、骨をかすり削っていっている。

「ほんまかなわんな」





 グラムは防戦一方だった。
 正確には防だけだった。
 魔術師による魔術の一斉攻撃。
 火弾、氷弾、雷撃、見えざる矢、爆撃。
 ありとあらゆる魔術を見えざる盾で防いでいる。
 人が反撃しないと思って好き放題やりやがってっ!
 しかし、うかつな反撃は出来ない。
 下手な反撃をして魔術師がバラけるのがまずい。
 そうなると、魔術師の標的が他に変わるかも知れないからだ。
 グラムは魔術師を一手に引き受ける為に防に徹していた。
 が、実の所、グラムには戦局を一気にひっくり返すカードを持っていた。
 だが、そのカードを使う以上はそれなりの覚悟を必要としていた。
 問題はその必要とする覚悟がグラム自身のものではない事だった。






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