ダークプリーストLV1 第六章−第07話






 たく、いつまでこれ続けるんや?
 無限と思える剣の檻。囲む兵以外にも、まだ後ろで準備万端な兵がいる。
 デイトンは迷っていた。
 もう、アバラは残っているほうを数えた方が早い。
 盾をもつ左手は折れかかっている。
 完全に折れてしまってはごまかしは効かない。
 あるいは完全にごまかしきるか。
 正直、マドカという司祭には好感をもっている。
 だが、それとこれとは別問題。
 ……と、割り切れるワイやったらよかったんやけどな。
 そもそも、情もなにもないのだったらエスファに居つかなかった。
 だが、ごまかすのをやめるには覚悟がいる。
 そして、その覚悟はデイトンがするものではなかった。





 グラムは半ば諦めていた。
 勝ち負けではない。そんなもの50年前に決着がついている。
 今だにやむ事のない魔術師達の魔術。
 むしろグラムにとってはぬるいくらいだ。
 大戦時はこんなものとは比較にならない魔術が飛び交ったものだ。
 だが、そろそろ頃合か。
 力負けした振りをして消えてみせれば、魔術師達は勝ったと思うだろう。
 デイトンとて、自分がそうなれば諦めるだろう。
 結局カードは切れなかった。
 そう諦めていた。
 半ば。
 空に浮かんでいるグラムだからこそ気付いた変化。
 おいおい、風が吹き始めてるぞ。
 彼は一度は手を離しかけたカードを今一度その手にした。





 肺の空気を残らず気合とともに吐き出した。
 限界まで回転を上げた棍から弧を放つ。マドカの制御出来る限界近い勢いでリューイの双剣の片方を弾き、その反動を利用して反対の弧で残った剣を弾く。
 さらにその反動で棍先は中央、がら空きとなったリューイの身体の中央。
 渾身の力を込めて、線を放つ。
 棍先は吸い込まれるように防具に覆われていない腹部へ突き刺さる。

「ぐっ!!」

 たまらずリューイの身体がくの字に折れる。
 今っ!
 頭部を狙って弧を――放てなかった。
 まるで、枯れ枝のように棍の半ばから先が砕け散った。

「……え?」

 信じられなかった。自分の半身が。アルミスの教えと共に生きてきた棍が。

「くくく、そりゃそうだよなぁ。重ねた盾の直撃受けた上にあれだけ盾の双剣弾いてりゃその棒がもつはずないわな。傑作だ。墓穴を掘りやがった」

 線の一撃は確実にダメージになったようだが、それでもリューイは立ち上がった。

「後ろもそろそろいい感じになってるしなぁ」
「え?」





 とっくにタレントの効果は切れていた。

 たくっ、ただでさえきつかったってのによぉ。

「よりによって弓兵とはな」

 ワルドの全身に無数の矢が突き刺さっていた。
 単純な話だった。
 騎兵、歩兵は自由に動けるが、マドカを庇っているワルドは動けない。
 弓の射線をかわすようにうごけば、騎兵が一気にマドカに襲いかかるだろう。
 だが、動かなければただの的だ。
 棍が重たく感じ始めた。
 限界が近い。いや、もう限界以上か?

「ワルドさんっ!!」

 悲鳴のような声が聞こえた。
 マドカ?
 こちらに向かって来ようとしている。
 おいおい、お前の相手はそっちだろう。
 そう思ってワルドはマドカの棍が折れているのに気付いてしまった。
 そうか、終わっちまったか。
 内心ホッとしている自分に気付いた。
 ようやく終わるのか。ワシの人生は。
 自分の死を受け入れ始めたワルドだが、その耳が何かをとられた。
 声? ときの声? なぜいまごろ?
 そして、これまでワルドを囲んでいた騎兵や歩兵達がいつの間にかいなくなっている事に気付いた。
 兵はどこへ?
 そして見た。エスファへ向かう兵士達。しかし進攻している訳じゃない。
 逆だ。

「まさか…」

 ワルドは思った。そんな夢のような都合の良い事なんて起こるわけがない。






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