ダークプリーストLV1 第六章−第08話






 グラムはついにカードを切った。

「待たせんじゃねぇよっ、エスファよ!」

 彼は待っていた。エスファが覚悟する時を。
 自分やデイトンは正体がばれれば確実に光の側に目をつけられる。
 だからこそ、ゴーストとスケルトンと偽ってきた。
 だが、見よ。ときの声と共にエスファの住人が武器をもって光の軍に戦いを挑んでいる。光の側と対峙する覚悟がエスファにあるなら、もう我慢する必要はない。
 彼は反撃の準備を整えながら、叫んだ。

「デイトンやるぞ!!」





 言われなくてもやるわな。
 デイトンにも状況は伝わっていた。
 暢気に待機していた後詰が慌ててエスファへ向かっていく様を見れば。

「な、なんだ」

 それまで、数を頼りに切りかかっていた歩兵達が一斉に下がる。
 デイトンの周囲が滲むように赤黒くなっていく。
 滲みはデイトンを。いや、デイトンと呼ばれていた骨をも飲み込んでいく。
 そして、滲みが喋った。

「運が悪かったなぁ、あんたら。50年前の遺物を相手にする事になるんやから」





「大丈夫、マドカ?!」
「リ、リーリスッ」

 馬に乗って単騎で駆けて来ているのは確かにリーリスだった。

「来ちゃだめっ、弓兵が」
「だからこそ、来たんじゃないのさっ!」

 言った端から矢が飛んで来るが、それは見えない壁に弾かれたように宙で反射し、地に落ちる。
 盾の法術の効果だ。
 リーリスはワルドの手前で馬を降りる。

「ワルドさん。これマドカにっ」

 ワルドは受け取ったものを槍を投擲するが如く投げる。

「受け取れっ、マドカッ」

 反射的にそれをマドカは受け取った。
 それはアースで作られた黒い棍。中央に彫られた名はリーリス。

「あんたの半身ほどじゃないかも知れないけど、役に立つと思うわよ」

 そしてワルドに向かって

「ワルドさんは馬に乗って避難して」
「避難って、お前はどうするんだっ」
「いいからっ、邪魔なのよ。はっきり言って!」

 酷い言い方だが、何が言いたいかようやく分かった。
 ワルドは素早く馬に乗る。
 全身矢だらけとは思えない動きだ。
 リーリスは神へ捧げる言葉を口にして盾の法術をワルドにかける。

「まだ動けるなら、前線で暴れてきて」
「分かった、そうするよ」

 ワルドは馬を急いで走らせた。
 巻き込まれてはたまらない。
 なにせ、彼女は竜巻のリーリスなのだから。





 光の軍は大混乱に陥っていた。
 進攻しての反撃はあっても、向こうからの攻撃があるとはまったく想定していなかったのだ。
 しかも、

「な、なんでオーガがこんなに早いんだよっ」
「しるかよっ。ぐへっ」

 次々とオーガの棒術門下生に兵士達が薙ぎ倒される。
 オーガは他種族に比べ怪力の持ち主である為、それに見合う重量武器を使うのが常識とされてきたが、威力はともかくとして、重量に自らの力が加算されるため、次の攻撃の間隔がどうしてもあいてしまう。
 しかし、棍ならば軽い上にマドカの指導により、ただ振り回すのではなく隙のない攻撃を可能にした。
 相手が熟練した兵ならともかく並の一般兵にとっては脅威以外の何者でもない。
 その上、そこに矢が無差別に降って来る。
 矢を射るのはダークエルフ達だ。狩りにでない女性達がほとんどなのでオーガ達にも当たっているが、オーガのタレントは固き皮膚。飛び道具の類が通用しない。
 故に兵士達はオーガと矢の2重攻撃にさらされる事になる。





 他方ではまた違った展開になっていた。
 騎馬兵に対してゴブリンとコボルトが主体の部隊だったが、主にコボルト達が使う珍妙な武器に騎馬兵は混乱していた。

「なんなんだよ。あのフレイルっ。盾で防げねぇぞ」

 正確にはそれはフレイルではなかった。
 コボルトは他種族に比べ背が低い。カミスが作る棍は主に身長にあわせて作られていたが、コボルト達の棍は当然短くなる。リーチもそれ相応に。
 それは種族差なので仕方のない話ではあったが、仕方ないで済ませないのがコボルトだ。
 彼らのタレントは器用さと発明。
 そして試行錯誤の末にマドカにも内緒で開発されたそれが実戦投入された。
 およそ身長の倍以上の丸材を3つに分割して鎖で繋いだもの。
 コボルト達は知らないが、マドカの世界ではこう呼ばれている。
 三節棍。
 背の低いコボルトでも馬上の兵士を楽に攻撃できる。むしろ、背が低い分馬上から攻撃しにくい。
 さらに凶化により恐怖を麻痺させたゴブリン達も脅威だった。
 これまで守るだけだった彼らが初めて攻めに転じた。
 兵士達は未知の事だらけに恐慌状態に陥りはじめていた。






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