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あおいうた−第一章 緑と青 第07話






「なに、そのCD」
「いや、たいしたもんやないやない。ちょっと音楽CDを焼いてもらっただけや」

 教室に戻った良縁はCDケースをカバンに入れて席についた。
 が、何が興味を引いたのか、真治が寄ってくる。

「な、なんやねん」
「じー」
「何にもあらへん。何にもあらへんって」

 真治の視線が下から上へとなめるように通っていく。首筋あたりに視線が来た時、つい身体が強張った。

「よいしょ」
「ちょっ」

 止める間もなく、真治が襟元に指をかけて広げる。

「……なんで増えてるの、お前」

 二つになったキスマークをみられ良縁は真っ赤になって襟を正す。

「黙秘権を行使する」
「却下」
「なんでやっ。俺は何も悪い事してへんぞ。これは蒼一先輩が――」
「つまり『姫』にやられたと」

 泥沼である。

「朝言ったばかりじゃなかったっけ。深入りするなって」
「俺は何もやましい事してへんぞ」
「じゃ、なんでキスマーク増えてるの」
「えっと、それは、その」
「知らないぞ。その内、取り込まれても」

 真治の言葉に返す言葉がなかった。





 寮で蒼一の部屋は二人部屋であったがルームメイトがいない。
 これは、誰もが蒼一と同室になるのを嫌がったせいである。
 そんな訳で蒼一は二人部屋を独占していた。
 勿論、本人は露ほどもありがたがっていなかったが。
 正確には独占するのはどうでもよかったが、一人というのは正直ありがたかった。
 授業が終わるとどこにも寄り道せず、まっすぐ寮に帰る毎日。
 制服を私服に着替えて、ベッドに横になり『オールグリーン・オールブルー』を口ずさむ。
 それはいつもの光景。ただ、心の中はいつも通りとはいえなかった。

 何故、あんな事をしたのか。

 ただ、良縁の首筋のキスマークを見た時、対抗意識のようなものが芽生えていたのを覚えている。
 彼は鶴沢美澄のものなのに。
 考えると黒い何かが、身体中を這い回っているような感覚が襲う。それは初めてではない。中学の時は、それこそ毎日のようにその感覚に悩まされた。

 追い出さなきゃ。

 蒼一は立ち上がって、備え付けの机に鍵付き引き出しを開ける。部屋に一人なので普段から鍵はかけていない。
 中から取り出したのは、柄の部分が二股に折りたためる、いわゆるバタフライナイフと呼ばれるものだ。
 なれた手つきで右手だけで開く。そして左手首のリストバンドを外す。
 黒いものを追い出す為、出口を作らなければならない。
 蒼一はためらいなく、傷跡だらけの左手首に刃をたてた。





「いつも、すまんねぇ。良縁君」
「いえ、オーナー。これが親の条件なんやし」

 ここは色彩付属高校の隣の市にあるトレーニングジムである。
 良縁は週末毎に、モニターした筋トレ用品の使用感をレポートにまとめてこのジムに報告に来ていた。
 このジムは、良縁の両親が勤める筋トレ用品メーカーと提携してるのだ。
 良縁のレポートはこのジムを通じてメーカーに届くようになっている。

「なんか、小物増えました?」

 トレーニングウェアやスポーツ関係の小物の売り場が心なしか広くなっているように感じた。

「ああ、今時は機能性だけじゃなくファッション性がないと売れないらしくてな、売り物の数を増やしたんだ。先週だったかな?」
「大変ですねぇ」
「まぁ、これも商売だからね。これで君が通ってくれるなら会員アップも見込めるんだが」
「勘弁して下さい。筋トレ用品は家だけで十分ですわ」
「だろうねぇ」

 ひとしきり二人で笑ったところで。

「じゃぁ、俺は帰りますんで」
「ああ、気をつけてな」

 ジムを出て、良縁はこれからどうしようか考えていた。
 主に食事の事である。
 基本的に良縁は自炊派であるが、これはわざわざ外へ食べにいくのが面倒だからである。
 だが、今は丁度お昼時。マンションまでは少し時間がかかる。
 外と自宅、さてどちらにしようかと迷っていた時、見覚えのある人影が見えた気がした。

 ただの他人の空似? 偶然にしては出来すぎやろ。

 心では否定しながらも足は人影が消えた方へ向かっていた。
 そして、距離が近づくにつれ確信にかわった。

「蒼一先輩!」

 呼びかけると振り向いた。やはり間違いではなかった。
 私服姿ではあったが、足を止めこちらを見ているのは海姫蒼一その人だった。
 しかし、近づくにつれて違和感が出てきた。
 相手は間違いなく蒼一なのに、なにかが違う。
 そして、目の前。自分を見上げる蒼一の目を見て違和感の正体に気付く。
 彼の目の色が青色だった。

「蒼一先輩、目が……」
「ああ、学校以外はコンタクトを外しているからね」

 そういえば、イギリス人とのハーフやったっけ。

 良縁は美澄の話を思い出していた。

「で、君はどうしてここに?」
「ああ。モニターしてる筋トレ用品の使用感を報告に来てたんですわ。蒼一先輩は?」
「僕は病院帰りさ。なじみの病院があってね」
「病院って、風邪か何かですか?」
「ちょっと怪我しただけさ」
「はぁ、怪我ですか」

 これが真治や美澄なら、何の怪我か察している所だろうが、良縁は特に何も思わなかった。
 蒼一が思いついたように言った。

「君はこれから予定はあるかい?」
「いえ、お昼どうしようかと思っていた所ですけど」
「そうか。なら丁度いい。ここで会ったのも縁だろう。奢るよ」
「え?! 奢るって俺ごっつい食いますよ。前に真治――ああ、クラスメイトなんですが奢るというから好きに食べてたら顔面蒼白になりまして」

 言われて、蒼一は口元を押さえて可笑しそうに笑う。
 学校ではせいぜい軽く笑顔を見せるだけだったのに、新鮮に感じた。

「それはそれは。ぜひとも見てみたいな、その食べっぷり」
「……後悔しても知りませんよ」
「望むところだね」

 そして、二人は近くのファミレスに入っていった。






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