過ぎた願い−07page






 しばらく歩いて、英二はようやくクズかごを見つけた。

「こういうのは不便だよな。ここ」

 人がいないからかも知れないが、それにしても絶好の花見の穴場と言ってもいいのだから、もっとなんらかの設備があっても良いだろうに。
 もっとも、そのせいで人が集まった場合、そこら中があっと言う間にゴミだらけになってしまう可能性は高い。

「まぁ、そうならない事を祈るけどな。昔からの常連としちゃな」

 昔から毎日ここに来ていた。
 桜の花の季節もそうでない時も。
 毎朝、毎晩、ランニングはここをコースに入れていて、さっき二人でいた辺りで一休みするのが決まっていた。
 彩樹と出会ってからもそれは変わっていない。
 桜の木々はずっと見ていたはずだ、英二の成長を。

  『ずっと、あなたの事。見ていました』

 ふと、あの言葉を思い出す。

「ほんとにどこで俺を見たんだ?」

 首を傾げる。
 英二は彩樹の事を何も知らない。
 聞いてもはぐらかすばかりで教えてはくれないのだ。
 どこに住んでいて、どこの学校に通っているのか。
 会っている時以外はどうしてるのか、何一つ分からない。
 英二の方もほとんど気にしていなかったので結局うやむやのままでここまで来たが…。

「でも、つきあって一年だぞ。いい加減はっきりとしないとなぁ」

 本当は少しは気付いてる。
 彩樹は聞かれたくないのだ。だからはぐらかす。
 ただ、いつまでもこのままではいられない。

「そろそろ覚悟を決めるか」

 例えなんであろうとも彼女を好きでいつづけられる自信が英二にはあった。
 好きで好きで…大好きだから。
 口にすれば陳腐で言った瞬間に赤面してしまいそうだが、それが真実だった。

「だから、もう誤魔化すのは無しにしてくれよ」

 ゴミ袋をクズかごに放りこんで英二は来た方向へ引き返した。






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