その日は家族で遊園地に行く事になっていた。
会社が経営難で休日出勤が当たり前になっていた茂さん。たまの休日なのに娘が喜ぶ顔が見たいからと笑顔でそう言った。
案の定、静香も喜んでいた。
まず、茂さんが車に乗り込んで、次に私。そして後部座席に静香が座って出発しようと思ってふと気付いた。
ああ、そう言えばこれから行く遊園地の割引券を新聞屋さんからもらっていたわね。
玄関前に車を出してから、私は車を降りて割引券を取り戻った。冷蔵庫に磁石でとめてあったそれを手にして、私はもう一度、家を出た。
早く、とそう車の窓からせかす娘に苦笑しながら玄関の鍵を閉めた。
そして、振り返った。
それは一瞬にして起こった。
突然に凄いスピードで別の車が走ってきたかと思うと、夫と娘の乗った車と接触した。
それはまるで夢のようだった。
たぶん、相手の車はブレーキをかけたのだろうがそれでも間に合わず、それぞれぶつかった部分は原型を残していなかった。
しばらく後に車が火を吹いた。
何が起こったか分からなかった。
やがて、人が集まってきて何人かが私に声をかけてきたが私にはどこか遠い世界のように思えた。
爆発の勢いのせいかふいに車のドアが開いた。あるいは接触した部分に近かったせいか脆くなっていたのかも知れない。
…それが見えた。
赤い赤い色。
始めはそれが何か分からなかった。
なぜならそれは元の形を失っていたから。
誰かが悲鳴を上げて、それは次々と周りにうつっていった。
「うそよ…」
否定したかった。
だって幸せだったから。
これからも続く幸せだったから。
だから、それが茂さんだったなんて認める訳にはいかなかった。
「うそよぉぉぉっ!!!」