カミキリバサミ−12page
「キミは学校をサボりかい?」
唐突に中年男性が語りかけてきた。
無言でいるのが息苦しくなったのかも知れない。
ただ、質問内容が少々危険だったが。
「高校クビになったんで」
「へぇ」
男性は目を丸くした。
「もったいないなぁ」
「説教ならいらないよ。親からたっぷりもらってるから」
「ははっ、まさか。私にそんな資格なんてないよ。もう3年も無職の身だしね」
「え? だってそのスーツ」
「面接があったんだよ。どうやらダメっぽいけどね」
中年男性は肩を竦める。
ただ、その仕草共に吐き出されたため息には疲れが感じられた。
「ずっと、就活中なのか?」
「まぁね。まぁ、職を選ばなかったらあるんだろうけど、今までやって来た事を否定したくなかったからね」
その後、しばらく沈黙が続いた。
誠にしても、特に働くでなし毎日ぶらぶらしていた身なので男性にかける言葉が見つからなかった。
唐突に男性が言った。
「ねぇ、アリとキリギリスの話は知ってるかな」
「…イソップ寓話?」
「そうそう、それ」
「まぁ、だいたい内容は知ってるけど」
誠は話の内容を思い起こす。
夏の間にアリは冬の準備に備えて働き、キリギリスはただ歌っていただけ。やがて冬が来ると飢えたキリギリスがアリを尋ねて食料を分けてもらう。
「日本じゃアリは親切に食べ物を分けるけど、元々の話では突っぱねてキリギリスは飢え死にするらしいよ」
「あー、なんかそうらしいね。シンデレラとかも残酷なんで話を変えてるとか」
しかし、なぜアリとキリギリス?
男性の意図が読めない。
「ねぇ、もしも冬が来たとしてキリギリスが食べ物にも、何にも困らなかったら。それを知ったアリはそれでも真面目に働くんですかねぇ」
「それは…」
どうだろう?
所詮、御伽噺だ。
その登場人物の気持ちなんて分からない。
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