カミキリバサミ−13page
とりあえず、夜にはまだ早いので一度帰宅した。
カミキリバサミが夜以外に現れるかもとは考えたが、さすがに昼夜問わずというのは勘弁して欲しかったので、夜にだけ現れる事を祈るのみだった。
玄関に入ると丁度、母親が掃除してる所に出くわした。
「おかえり」
「ただいま」
「…どこいってたの?」
「ちょっと買い物」
「せかすつもりはないけれど、いつまでもフラフラしないでバイトでもしたら。お父さんの愚痴を聞くお母さんの身になって頂戴」
「…長続きしないよ。きっと、な」
階段を上がって自室に入ってベッドに寝転んだ。
アリとキリギリス。
男の言った事が頭に浮かんだ。
「さしずめ、俺はキリギリス、か」
家は比較的裕福で誠が遊んでいても十分養っていける。
誠が両親から放任されているのも、余裕があるからだ。
だが、それがいつまでも続かないのは誠も分かっていた。
一歩踏み出さなければならない。
しかし、何をやりたいのか。何になりたいのか。
「職を選らばなかったら…か」
男の言っていた事と重なっているようで、男の事が他人事の様に思えなくなっていた。
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