カミキリバサミ−15page






 あれから数日が過ぎた。
 カミキリバサミを追うのをやめた誠は何をするでなく、街をうろつきまわることが多かった。
 昼間は日差しが強いので家にいたほうが快適だろうが、なぜか動き回っている方が気が紛れた。
 余計な事を考えなくて済むからだろうか。
 ふとビルボードを見上げれば、ニュースでカミキリバサミの特集をやっていた。
 さすがに2桁近い犠牲者が出れば話題にもなるだろう。

「ようやく、千里が落ち着いてきたってのに」

 ため息をつき、街路樹の縁に座る。

「やぁ、奇遇だね」

 そこにはあの男性が立っていた。

「隣いいかな」
「どうぞ。今日も面接?」
「ああ、そうだね。やっぱり反応は芳しくなかったけど」

 諦観といった風情だ。

「まったく、私は今まで何の為に努力してきたんだろうねぇ」

 ため息交じりにいって、ビルボードを眺める。
 ニュースの内容はまだカミキリバサミの話題だった。

「そろそろ話が大きくなってきたね」
「あんた、知ってるのか。噂の事」
「まぁ、あちこち歩きまわってるからね。小耳に挟むくらいだけどね。あっ、自己紹介してなかったね。ご存知の通り無職なので名刺がないのが残念だけど、不動秀和って言うんだ」
「あ、俺は兵頭誠」
「そうか、誠君か」

 秀和は頷いて、またビルボードを見上げた。

「もう少しで願いが成就して呪いが降りかかるのか」
「まぁ、呪いと言っても具体的になんなのか分かんないからな。案外大した事ないのかも知れないけど」
「何言ってるんだい? 呪われたコは死ぬんだよ?」

 刻が凍りついた。
 今なんて言った?

「ちょ、ちょっとまってくれ。死ぬってなんだよ、俺は初耳だぞっ!」
「僕も聞いただけだから本当かどうかは知らないけど、カミキリバサミの儀式が成就した時、髪を切られた13人の女性は切られた逆順に死んでいくって噂だったよ」

 一瞬で血の気が引いた。

「君、大丈夫かい? 顔色が青いよ」
「大丈夫…なんかじゃない」

 あの少年はカミキリバサミに最後まで儀式をやらせるつもりだ。
 冗談ではない。
 呪いについても対策を考えていると言っていたが、呪いが死を意味しているとなるとどこまであてにしていいか。
 少年自身が言ったのだ。
 自分は正義の味方ではないと。

「くそっ」
「うわっ」

 誠がたちがたった時、秀和のカバンの端に足が当たり膝から地面に滑り落ちた。
 しかも、留め方が甘かったのかカバンのフタが空いて中身が飛び出した。

「あ、悪いっ」

 誠は慌てて飛び出したものを拾っていた。
 中にはずっしりと重いクリアフォルダがあった。
 透けて見える中身は履歴書や職務経歴書、資料で埋まっていた。
 秀和がどれだけ苦労と努力とを積み重ねてきたのかが嫌でも分かった。
 そして、一番遠くにとんだものを拾おうとして、硬直した。
 それはハサミだった。大振りの金ばさみ、しかもケースなどなく裸で飛び出していた。
 横から手が伸びてきた。
 反射的にどくと秀和がそれを手にしてカバンにしまった。

「結構使うんだよ。履歴書の写真切ったりとか。カッターの代わりにもなるしね」

 特になんでもないように誠から受け取ったものをカバンにいれてフタを閉めた。






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