カミキリバサミ−17page






「なーんか、急に話が壮大になって来た気がするな」

 うんざりした表情で玄関を開ける。

「ただいま」

 声を聞きつけたのか、奥から千里が出てくる。

「よう、千里」
「お兄ちゃん。お父さんが呼んでるよ」
「親父が? 直接呼べばいいのに」
「なんか難しい顔してた」
「…まさか勘当とか言わないだろうな」

 カミキリバサミの件が終わりに向かっているというのに、別の悩みを抱えるのは勘弁願いたい。

「とにかく、早く行ったほうがいいと思う」
「そうだな」

 千里の頭をポンと軽く叩いて居間にいくと、なるほど父親がローテーブルを前にして腕を組んで座っていた。

「誠、座れ」
「ああ」

 対面に座ると母親が二人にお茶を置いて戻っていく。
 その態度が何かよそよそしくて勘当の二文字が頭から離れない。

「お前はどうしたいんだ?」
「え?」

 唐突な問いに、父親の真意を図りかねた

「なにかとフラフラ遊んでばかりいるようだが。もし、お前に何か目標があるのなら、それが世間的に馬鹿げた事であったとしても支える覚悟はある。親としてな。だが、何の目標ももっていないのなら時間は無限にある訳じゃないぞ」

 もしも、秀和と出会っていなければ、説教はいらねぇと怒鳴ってた所だが。

「今はまだ…よくわからねぇ。けど、もしかしたら近いウチにそれが何か分かるかも知れない。もうちょっと時間をくれよ」
「…そうか」

 父親は満足そうに頷いて茶を啜った。

「もういいか?」
「ああ、十分だ。お前からそんな言葉が聞けるとはな」

 なんとなく照れくさくなって、早足で居間を出ると千里とぶつかりそうになる。
 かげで聞き耳をたてていたらしい。

「お兄ちゃん。別に無理しなくていいよ。何だったら私がいっぱいお金をかせいでお兄ちゃんを養ってあげるから」
「妹のヒモかよ。勘弁だな」

 千里の頭を軽く叩いて、自室に向かった。






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