カミキリバサミ−18page






 町へでると金髪先生の目立つ姿が見えた。
 思わず声をかけそうになって、その後ろをつけている赤い集団が人差し指を唇にたて、静かにしろという合図を送っているのに気付いた。
 改めてみると金髪先生の横には湊が並んで歩いていた。

「やるー」


 思わず誠は口笛を吹いた。
 もっとも、今後の二人の前途は多難だろうが金髪先生ならなんとかするだろう。

「俺も負けてられないな」

 目的地である街路樹の縁に座る。
 来るという保障なんてどこにもないが、少年がいった通り、自分と和弘の対決の物語というのならば。

「やあ」

 人懐っこい笑みを浮かべて相変わらず汗をハンカチで拭きながら秀和がそこにいた。

「隣いいかな」
「どうぞ」

 ペタンと横に座った彼の横顔からはカミキリバサミの印象はどこにもない。

「就活どうだよ?」
「はっは。あいかわらずだねぇ。面接までこぎつけるだけでも一苦労だのに」

 困ったように笑う、秀和。
 もしかして、残酷な事を聞いてる気がしたが、秀和からは微塵も不快そうな感じはしない。

「なぁ。あんたは高校の時、何してた?」
「勉強だねぇ」
「いや、そりゃ当たり前だろ? もっと他に──」
「当たり前なんかじゃないよ。友達と遊んだり、道を外れたり、趣味に走ったり。いろいろ出来る時間だったんじゃないかな?」

 以前、秀和は誠が高校をクビになった事をもったいないと言っていた。

「学校ってのは可能性を育てる場所と時間なんじゃないかなって今になって思うんだ。でも、僕は中学も高校も大学もひらすら勉強してた。親がうるさかったって言うのもあるけど言い訳だね。とにかく勉強さえしてれば何にでもなれるなんて思ってた。勉強なんて手段であって目的じゃないのにね」

 秀和は誠に向かって自嘲的に笑う。

「そして、現実がこのザマさ。勉強しかしてこなかったから勉強以外の事が分からない頭でっかち。友達一つ作れない情けない大人の出来上がり」

 そして、視線を遠くに向けて、誠にというより独り言のように呟く。

「何になりたかったのかなぁ。子供の頃はあったと思うんだ。今となっては馬鹿々々しいかもしれない何かが。でも、もう思い出せないんだ」






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