鉄仮面魔法少女まりん−03page







「なんなのよ、なんなのよいったい」

 いったい何度目か数えるのも億劫なほど繰り返した独り言。
 気味の悪さと寝起きが悪かったのとそれによるイライラでどんどんと人相が悪くなっていく。
 すれ違う通勤途中のサラリーマンが危険物を見る目つきで、真鈴に道を開けていく。
 今日はいつも通学に使っている道とは少し違っていた。
 近道の為に空き地を突っ切り、立ち入り禁止の看板を蹴り倒し、たどり着いたのは鉄仮面を拾った場所だった。
 周りに人がいないのを確認してから背負っていた鞄から鉄仮面を取り出し

「せーのっ!」

 ブンッ!!

 かなり大きな風切音を立てて、投げ捨てた。
 鉄仮面は道路を越えて、その向こう側の歩道を滑っていく。
 本当は地面に埋めようと思って、幼稚園時代から愛用のスコップまで持参していたのだが、いざその時になると死体を埋める殺人犯のような怪しさに耐えれなくなりこうなった。

「今度は戻って来ないでよねっ」

 用が済んだのでいつもの通学ルートへと引き返す。
 ちょうどいつもの道に戻ったところで香厘とばったり会って目を丸くされたが、適当に誤魔化した。
 香厘にはあからさまに疑いの目で見られたが、まさか怪しい鉄仮面を捨ててきましたとは言えまい。

「真鈴、目が赤いわよ」
「ん? 寝起きが悪かったからそのせいでしょ」
「大丈夫?」
「大丈夫よ。今日だけだろうし…」

 言いながらも何か嫌な予感がしたが、あえて自分自身をも誤魔化した。
 それがまったく意味ない行為だったと後々知る事になるが。





 昼休みも半ばを過ぎた頃、教室に遠慮のないあくびが響き渡る。

「おっきなあくびね」

 びっくり半分、共感3割、呆れ大さじ2杯といった感じで香厘が評する。

「んー、いつもより早く目が覚めたしねぇ。それに夢見も悪かったような気がするし眠りが浅かったかもしんない」
「そんなものなの?」
「さぁ?」

 言った本人も自信なさげに肩を竦める。

「何か調子出てないわね。悩み事でもあるの?」
「ううん、特になにも」

 通学途中に投げ捨てて来ましたとは言えはしない。
 ただ、ふとなんとなく聞いてみた。

「そーいえば、香厘ぃ」
「なに?」
「捨てたはずの物が戻ってたりしてたらどうする?」
「…何かの比喩?」
「違うよ」
「どっかの漫画かアニメの話?」
「ううん、違う」

 考え込んで無意識に髪を掻き上げる香厘。
 どことなく絵になる姿を心のどこかで羨ましく思いながら答えを待つ。

「捨てたはずの物って言うのが曖昧すぎて良く分からないけど…、たぶんまた捨てるんじゃないかしら」

 今朝の行動そのまんまの返答にややがっくりしながらも納得して机に突っ伏した。

 ツンツンッ

「つーつかないでよぉ」
「話を振るだけ振って寝ないでよ」
「別に何でもないって」
「何でもないなら言いなさい」
「話すような事は何もないって」

 頭をつつこうとする細い指先を機敏にかわしつつ、何気なく尋ねる。

「また捨てたものが戻ってきたらどうするの?」
「んー、とりあえずなんで戻って来るのか知ろうとするわね。で、何の話なの?」
「ちょ、あひゃひゃひゃっ。こ、こらっ、くすぐるの反則っ!!」
「ここ、弱いのは相変わらずね。ほらっ、ここはどうだっ」
「や、やだっ。変なとこ触るなっ。スケベッ」
「…なにやってんだよ、お前等」

 呆れた口調の篠原。

「心暖まるスキンシップだけど」
「その体勢のまま真顔で言うなよ、江武原。しっかし」

 横目で見ると、真鈴が激しく抵抗した為、二人は机に半ば倒れ込む感じになっている。

「…真鈴、男に興味ないからって女を襲うなよ」
「誰が襲ったかっ!!!」

 真鈴の腕が一閃、篠原の首を直撃する。そのまま倒れ込むように真鈴は獲物を床に叩き付けた。
 遠まきに見つめているクラスメイト達が哀れみの視線を痙攣している篠原に向ける。

「お見事。必殺の首刈りラリアット」
「まだまだタイミングが甘い。必殺には程遠いわよ」
「こ、殺すつもりだったのかよ」

 ボロボロながらも篠原、復活。

「ちっ、止めが必要だったか」
「だめよ、真鈴。いじめはいけないっていつも先生に言われてるでしょ」
「分ったわよ」
「…江武原。フォローしてくれるのはありがたいが、それはそれで痛いんだけどな」

 いじめられっ子扱いにいじけながらも二人の間に割って入る。

「で、何の話してたんだよ」
「んー、真鈴が隠し事してるって話」
「してないって」
「嘘おっしゃい」
「嘘じゃないって」
「その微かにそらす視線が確かに怪しいな」
「お前は黙ってろー!」

 再び教室に打撃音が響き渡った。
 そして騒動が収まった時には昼休み終了のチャイムはとっくに鳴り終わっていた。





 声が聞こえる。
 聞いた事のある声だ。

(お願いします)
(しつこいなー。そんな事に興味ないって)
(他人事ではないのですよ)
(他人事よ。あたしの知った事じゃないって)
(考え直しては貰えませんか?)

 しつこいな、ほんと。





「いいから、ほっといてよっ」

 ゴンッという重い音が響いた。

「…目が覚めたか、萩本?」
「は、はひ。きっちりと…」
「そうか、そうか。それはよかった」

 真鈴はズキズキと痛む頭を押さえながら、恐る々々拳骨を落とした中年教師の顔を伺う。
 彼はにっこにっことこの上ないくらいに上機嫌な表情でスキンヘッドの頭を輝かせつつ、ごっつんごっつん拳を打ちならす。
 放射能汚染物質並に危険な存在であろう。

「さて、君のご希望、ど・お・り・に、ほっといてあげたかったが…今はじゅ・ぎょ・う・ちゅ・う」

 言葉を句切るたびに人差し指を振る。
 火星人のボディランゲージにしか見えない。

「取りあえずほっといて欲しかったら、この私の受業を受ける必要ないという証明をしてもらおうか。ほら、前に出て書いてある問いの答えを全部書け。残したらビューティホーな宿題が盛りだくさんだ」

 子供が泣き出しそうなくらいに爽やかな笑顔で歯を輝かされては、覚悟を決めるしかない。
 黒板に所狭しと書かれたそれを見て、真鈴はいっそ気を失えたらなどと考えてしまった。






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