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鉄仮面魔法少女まりん−05page






 かつて、偉大なる魔術師がいた。
 あらゆる知識と物理法則すら歪ませる力、自身の魔法によって創り出した下僕を従える彼には何一つ他者に劣るものはなかった。
 力を得る為に自らの名前すら捨てた彼を、他の魔術師達は”絶対者”と呼び恐れ敬った。
 その力を羨み妬み、彼を敵と定める者も少なくなかったが、その多くは彼に傷一つつける事すら叶わなかった。
 ある日、敵対する一人の魔術師が異界の門を開き多数の魔物を呼び出すまでは。

 異界の門より溢れた魔物は本来の目標ではなく、門を開いた魔術師自身を食らい尽くし、その後まったく無力な魔術師でない人間に襲いかかった。
 多くの魔術師達は魔物を封滅させようとしたが、そのほとんどが戦果を上げる事はなかった。明らかに魔物より魔術師達の方が劣っていたのだ。
 唯一対抗出来たのが、本来魔物達の目標になるはずだった”絶対者”で彼だけが魔物を封じ込める事に成功した。
 だが、滅するには至らず。また、代償に”絶対者”はほとんどの魔法を失ってしまった。
 ”絶対者”は”絶対者”ではなくなってしまったのだ。
 だが、彼はその事自体に落胆していなかった。
 魔法技術の粋を極めてしまっていた彼にとって、”絶対者”である事になんの未練もなく、むしろ様々なしらがみから解放されるのは喜ばしいと感じていたのだ。
 ただ、一つ気がかりなのは魔物を封じ込めた封印。
 封印は魔物を封じ込めるだけであって、万が一でも封印が破られる事があるのならまた魔物達が人々を害する事になる。
 故に元”絶対者”であった彼は残った下僕達を集め命じた。

『封印を死守せよ』





「うさんくさい」

 喋る鉄仮面の昔話を聞いて、真鈴は素で本音を吐いた。

「うさん…くさいって、そ、そんな…」

 ちょっぴり。いや、実はかなりショックを受けた口調のマリン。

「だってそうでしょう。この科学万能の時代に何が魔術師よ。何が魔法よ。そんなもん、漫画やゲームに溢れる程でてて食傷気味よ。どうせならもっとネタ捻りなさいよ」
「いや、別にウケを狙っている訳じゃないのですが」
「ウケ狙いって思わなきゃやってられないわよっ」

 実はかなり脳がオーバードライブしている真鈴。
 現実逃避の半歩手前に入っていた。

「で、なに? あんたがその封印とやらを守るように言われた奴隷って訳?」
「いや、奴隷じゃなくて下僕なんですが」
「どっちもペットみたいなもんでしょっ」
「奴隷はともかく首輪をした下僕っていうのはあまり聞かないのではないですか?」

 真鈴も暴言だが、マリンもかなりマニアックな発言だった。

「ああ、もうっ。そんな事はどうでもいいのっ。で、なに? ストーカーみたいに付きまとって、いったいあたしに何の用なのっ」
「ストーカーって…」
「い・い・か・ら。何の用なのっ」
「はい、実はお願いがありまして」
「前振りはいいからとっとと用件を言えっ」
「…はい」

 声のテンションがかなり低いマリン。
 どうやら色々と傷ついているようである。

「封印が綻んで何体かの魔物が逃げ出したので、捕らえるのを手伝ってもらいたいのです」

 直球というか、詳細説明を省略しきったフラットなお願いだった。

「いやよ」
「ううっ」

 こっちも直球。ただしこっちは思いっきりデッドボール気味だが。
 マリンの呻き声が心なしか涙交じりのように聞こえる。

「だいたい封印ってさっき言ってた魔物を封じ込めたって奴でしょ。そんでもってあんたはその封印から逃げた魔物を捕まえようとしてるんでしょ? だったらなんであんなとこに転がっていたのよ」
「好きで転がっていた訳ではありません。封印から逃げた魔物達を押え込もうとしたのですが力が及ばず、逆に破壊されそうになったのでかろうじてあそこまで逃げたのです」
「あそこまでって、なんであんなところに…。って、そもそもその封印ってどこにあるの?」
「どこと言われても困るのですが…。あえていうなら”ここ”という事になりますね」
「”ここ”?」
「あなた達が友野辺町と呼んでいるこの土地自体が封印なのです」
「…はい?」
「正確にはこの土地は封印の楔であり、封印の魔法そのものは別次元に切り離された疑似空間に存在します」
「良くわかんないけど、なんとなく分った…ような気がする」
「本当は魔物が逃げ出す事など封印の強度を考えれば無理な話だったのですが。ここ最近にちょっと予想外の事がおこりまして…封印の強度が一時的に弱まってしまったのです」
「最近…て」

 ふいに真鈴の脳裏にひらめくものがあった。
 脳裏にリピートされるのは昨日の放課後の会話だ。

「地震?」
「はい。地震そのものは大した事ないはずだったのですが、偶然に封印を支える要となる土地が変化してしまったのです。封印の強度の弱体化は一時的なものですが、力のある魔物が逃げ出すには十分すぎる時間でした」
「ちょっと待って」

 真鈴はマリンの話を止めて頭の中で今まで彼女(?)が言った事を整理する。

「つまりあんたは逃げた魔物を捕まえたい訳よね」
「はい、もう一度封印に閉じこめれば強度は元に戻ってますから再度逃げ出す事は出来ません」
「で、逃げようとした魔物を一度は封印から逃がさないようにしようとした訳だよね、あんたは?」
「はい、そうですが。何か?」
「で、押さえるはずが逆に破壊されそうになって逃げ出した、と」
「不覚でした」

 沈痛な声を出すマリンにビシッと指を突きつけて。

「一度負けてるくせに、どうやってまた封印に戻そうってのよあんたはっ」
「い、いや、あれはふいを突かれたせいもありますし、だいたい一度に複数に襲われましたので」
「つまりは一対一で正面からやりあったら勝てるとでも?」
「そのつもりです」
「だったら、とっととそうしなさいよ。ストーカーよろしく人をつけ回さずに。いい加減いしないと警察に突き出すわよ」

 突き出された場合、警察が非常に迷惑する事は間違いないだろうが、今の真鈴にそこまで考えは及ばない。

「…私が魔物に対抗するにはヨリシロが必要なのです」
「ヨリシロ?」

 真鈴は眉をひそめた。
 言葉を口の中で転がしてみたが、何の事か分からない。

「何よ、それ」
「簡単に言うなら魔法技術によってつくられた人形です」
「なんだってそんなもんが必要なのよ」
「では、お聞きしますが。真鈴さんは私が魔物に対抗するのにどのような光景を想像しますか?」
「そりゃ…」

 何かを口にしようとして固まった。
 鉄仮面、鉄仮面、鉄仮面…
 魔物というのがどんな姿をしているか分からないが、VS鉄仮面なシーンが思い浮かばない
 当たり前である。
 どこの世界に戦う鉄仮面が存在するのか。
 少なくとも手足くらいはないと…。

「あ、もしかして…」
「はい、ヨリシロとは私達のボディとして可能な限り人間に近く作られた人形なのです」
「なるほど。あんたが本体でヨリシロってやつは取り替え可能な訳ね」
「そうですね。そう考えて頂いて結構です。実際は私専用のヨリシロがあった訳なのですが…」

 マリンが言葉尻を濁す。

「それで、そのあんたのヨリシロはどうしたの?」
「…破壊されました」
「は?」
「魔物が逃げ出した時に、本体である私は逃げる事が可能でしたがヨリシロまでは…」
「ちょっとまってよ。あんたさっき魔物に対抗するにはヨリシロが必要だって言ったじゃないっ」
「はい、確かにいいました」
「で、そのヨリシロが破壊されたんなら、やっぱあんたは役に立たないじゃない」
「………」

 数秒沈黙が落ちた。
 そして、小さくぼそぼそと、『役立たずじゃないもん』やらなにやら聞こえてくる。

「なによ」
「…いえ、ですから真鈴さん。あなたに協力頂きたいのです」

 真鈴の脳裏を嫌な予感がさわやかダッシュで駆け抜けていく。

「えーと、それって」
「先程、ヨリシロは魔法技術で作られた人形といいましたが、ヨリシロ本来の意味は単に私のような疑似人格によって動かされる物体を指します。私には私自身を装着した人間の肉体を制御する魔法が使えますから」

 分かってしまったので最後まで言わせなかった。

「つまり、体を貸せと? ようするにあんたを被れと?」
「はい」

 返事をするのに思考は不要だった。

「嫌に決まってるじゃない。そんな怪しいことっ!!」






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