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鉄仮面魔法少女まりん−08page







「じゃぁね、香厘」
「うん。また明日」

 下校途中の分かれ道で別れた香厘の背を見送ってから、誰にともなく呟く。

「さ、いくかー」
「お願いします」

 呟きに応える声を聞く者は誰もいない。
 もしもいたら、それで目的の半分は達成されるわけだが。

「とりあえず、人のいないところに行っても意味がないから…商店街とか公園だろうなぁ、近所をぐるっと回るか。あと団地が密集しているところを通って」
「駅前はどうでしょうか?」
「うーん、そりゃそっちの方が人は多いだろうけどちょっと距離あるし。とりあえず、今日は近所探して見つからなかったら明日駅前で探そうよ。どうせ明日は土曜日だし、フリーの午後はめいいっぱい使えるわよ」
「じゃぁ、それでお願いします」
「鞄の中のままで大丈夫?」
「姿隠しの魔法を使えば入らなくても問題ないと思いますが、地面にいた時と違って手に持ったものってのは人の意識が集中しやすいですから、普通の人にも見えてしまう可能性がありますね」
「じゃ、そのままでいてもらうわよ」

 宣言通りにマリンを鞄に入れたまま、人の多い場所を回り始めた。
 時間が時間だけに行き交う人間は、買い物に出ている主婦や真鈴と同じように学校帰りの学生が目立つ。
 次々と場所を替えながら、今まで疑問に思った事を口にした。

「ところでさ」
「はい?」
「その魔物って、ほっといたらダメな訳?」
「…は?」
「だってさー。確かに昔は悪さをしていたかも知れないけど、今もするとは限らないじゃない。第一、もうこの近辺にいないって可能性はないの?」
「まず、後者に限っては現時点においてはないと断言出来るでしょう」
「なんで?」
「封印にいまだ縛られているからです」

 ん? と真鈴は首を傾げた。
 マリンは逃げた魔物を追っているのではなかったか?

「封印の内側に捕らえられているのと、封印の影響から完全に脱するのとは別物なんですよ。確かに魔物達は封印から逃げ出しはしました。ですが、長年捕らえられていたせいで力が減じている為、封印が及ぼす影響範囲、つまりはこの町近辺より外側へは出られない。例えるなら牢獄を脱走出来たが、足枷がついたままという状況です。枷に繋がる鎖の範囲で行動出来ますが、その範囲外へは出られないのです」
「なんか、この町の住人としては思いっきり迷惑な話なんですけど」
「いや、まぁ。”絶対者”様もこんな事になるとは思いませんでしたし。で、真鈴さんのもう一つの質問の方なんですけど、これに関しても今いった事が関係してきます」
「というと?」
「魔物達は封印から脱しましたが、結局また封印に縛られてその影響下を脱する事が出来ません。封印の内側よりは自由だとはいえるのですが、その事に魔物達が納得すると思いますか?」
「うーんと。無理…じゃないかなぁ。少なくともあたしだったらやだなぁ」
「でしょうね。魔物達もそうでしょう。だったらどうします?」
「出る為の努力をする…かな?」
「どうやって?」
「えっと…そもそも封印に縛られるのは力が減っている為よね。だったらその力を元に戻せば」
「問題はそこです」
「つまりは魔物の力が戻る事が問題なの?」
「いえ、戻る事自体ではなくその手段が問題なのです」
「手段?」
「失った力を取り戻すには自然に回復を待つか、他の存在の力を奪っていくかのどちらかですが、少なくとも前者はあまりに時間がかかり過ぎます」

 なら、魔物の取るべき手段は後者になる。
 真鈴はマリンの言いたいことを直感的に理解した。

「他の存在って、もしかして人間?」
「別に人間に限りません。植物を含めた他の生物、非生物ですらその対象になりえます。ただ、効率という観点では人間から力を奪うのが一番手っ取り早い手段である事は確かです」
「で、でも生き物以外でもおっけーなら、人間は避けようって奴も一人くらいいるんじゃないの?」

 真鈴の希望的観測をマリンはきっぱりと否定する。

「いえ、魔物にとっては人間は餌でしかありません」

 餌という言葉を聞いて背筋が寒くなった。

「だからこそ、一刻も早くヨリシロを探して魔物を再び封印の内側へ送り込む必要があるのです。真鈴さんがその気になってくれれば早いのですが」
「い・や・よ。そんな話聞いたらなおさらやりたくないわよ」
「どうしてですか。みんなが危険にさらされているんですよ」
「別に他人がどうなろうと知ったこっちゃないわよ」

 きっぱりと即答されてマリンは絶句した。

「あーのーね? 今時、正義の味方なんてはやんないわよ。そんなのはTVや漫画にまかせておけばいいのよ。魔物? みんなが危険? だからなんなの? あたしはただの中学生よ、なんで見も知らない誰かの為にそんな訳わかんない事しなきゃなんないの」
「………」
「勘違いしないでね。あたしがこうやってあんたに付き合ってるのだって、付きまとわれるのが嫌なだけよ」
「は…い…」

 掠れた返事。
 少し真鈴の足取りが速くなる。傍目に見てもイラだっていた。
 二人(?)はしばらく無言だったが、真鈴がぽつりと聞いた。

「ねぇ、なんであんたはそんなに魔物にこだわるの?」
「…え?」
「良く分かんないけどさ。今までずっと封印を守って来て、今も魔物を封印の中に閉じこめようとして、なんか報酬でもあるわけ?」
「いえ、報酬とかそういった問題では…」
「だったら、何の得があるの? それとも、怨みでもあるの?」

 一瞬、マリンは躊躇うように黙ったが、

「…私は封印を守るために作られました。魔物が二度と人々を害さないようにと。それが私の存在理由です。それを放棄しては私をお作りになられた”絶対者”様に申し訳がありません」
「その為に作られたから…か。自分の意志って訳じゃないんだ」
「真鈴さん。私は所詮、物でしかないのです。決してそれ以上でもそれ以下でもない」
「そうだね。…その”絶対者”さんも迷惑なもんを残してくれるねぇ」

 ふと、足を止めて時間を確認する。

「こんな時間か」
「もう無理ですか?」
「いや、そんな事はないけどさ。だいたいこの辺りで思いつく所は回ったわよ。でも反応なかったんだよね」
「………」

 マリンの無言が肯定の意志を告げていた。
 やや、うんざりしながらため息をつく真鈴。

「これ以上は回っても意味ないんじゃないかな? どうしてもって言うなら粘ってもいいけど、どうする?」
「いえ、確かに同じ所を回っても確率は低くなる一方でしょう。それに真鈴さんの生活を圧迫させてしまう気はありません。明日お願いできますか?」
「駅前の事?」
「はい、少なくともここよりは人が多いのでしょう?」
「おっけー。じゃ、帰るよ。ついでに買い物してくか。スーパー行くからその『声』だけは飛ばしておいてよ。もしかしたら見つかるかも知れないし」
「分りました、そうします」






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