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鉄仮面魔法少女まりん−14page






 再び動き出したのどちらからだったのか。二つの影が交差する。

「ウィンド・カッターッ!」

 放たれた風の刃は紙一重でかわされた。
 白疫鬼が大きく口を開けた。
 マリンには魔物が何をするか分っているのか、身構え呪文を詠唱する。



 流れをここで分断する。
 分れよ、大気の層。



「ストリーム・シャッター」

 魔物の口より放たれた白い煙のようなものがマリンに迫る。
 だが、まるで大気を透明な刃で切り裂いたかのように眼前で左右に分れて流れ去っていく。

「この程度のものなど…、え?」

 一瞬、マリンは呆気に取られた。
 煙が視界を奪ったのは一瞬。
 だが、その一瞬の間に白疫鬼の姿が消えていた。

(馬鹿なっ、奴が移動系の能力を持っているはずはっ)
(違うっ、上っ!!!)

 うろたえるマリンの思考に割り込みがかかる。
 真鈴の『声』は根拠があるものではなく勘に過ぎなかったのだが、結果としてそれが明暗を分けた。
 反射的にマリンはその場を飛びのく。

「ちぃっ」

 耳元を悔し気な声が通りすぎる。
 上から落下してきた白疫鬼の攻撃は不発に終わる。
 だが、体勢の崩れたマリンに対してさらに追い討ちをかける。

「カカカッ、最初の大口はどうしたっ!!」
「くっ」

 いくら、魔法で肉体が強化されていると言ってもロクに体勢を整えられない状態では、十分な回避運動がとれるはずもなく、次々と繰り出される8本の脚をかわすだけで精一杯だった。

(ちょ、ちょっと。押されてるじゃないっ)
(わかっていますっ!)

 前方から迫る脚。後方に跳ぶと見せかけ、逆に脚を紙一重でかわして白疫鬼に向かって跳躍する。頭上を通り越し様に鷹ような鋭い爪を備えた手が伸びてくる。
 呪文を詠唱する余裕はない。

 キンッ!

 左腕のプロテクターでそれを弾くと金属的な音が鳴った。瞬間、肩から首筋にかけて微かな熱を感じたが、それが何か気付く前に地面に着地していた。

「かすっていたのですか…」

 マリンは熱を感じたあたりに手を当てて呟いた。
 微かに手にこびり付いた赤色。
 白疫鬼の手がプロテクターを滑って、かろうじて皮膚一枚をかすめていたのだ。

(油断があったかも知れませんね。でも、次はありません)

 ダメージ的にはほぼ皆無。
 マリンはそう判断した。
 実際、なんら行動に影響を及ぼさない程度のもの。
 だが、実はこれが致命傷にも等しい傷であった事をマリンも、傷をつけた白疫鬼ですら気付いていなかった。
 方向転換してこちらを向いた白疫鬼が再び口を大きく開いた。

(また、同じ手をっ)

 ならば、と今度は煙が来る前に範囲外へ跳ぼうとした。

「えっ!?」

 何故か、反応がずれた。
 迫る煙。このまま跳んだところで煙に巻き込まれる。

(くっ、肉体の制御を誤った?)

「ストリーム・シャッターッ!」

 煙が分れる。その向こう側に白疫鬼はいない。

(どこっ)

 意識を回りに集中する。
 土を擦る音が左からっ!

(ちっ)

 今度は肉体制御を誤らないように意識し、そして愕然とする。
 真鈴の肉体に張り巡らされた魔法による制御網。
 肉体制御に必要なそれがほとんどダメージを受けていないにもかかわらず、3割以上が分断されていた。

(な、なぜっ!?)

 一瞬それる意識。
 そして気付いた時には白疫鬼がすぐそこに迫っていた。

(し、しまったっ!!)

 爆ぜるような衝撃に視界がぶれた。
 まるで蹴飛ばされたゴム毬のようにマリンは勢い良く地面をバウンドする。

「な、なにがどうなって…」

 ダメージは奇跡的に極小。衝突したのが胸部のプロテクターだったのが幸いした。
 首筋のぬらついた感触。先ほどの傷がさらに開いて血が垂れているのだ。

(とにかく、制御網の修復を…)

 慎重を期すようにゆっくりとこちらに近づく白疫鬼の様子に歯噛みしながら、制御網の状態を走査する。

(な、なぜっ。こんな事がっ!?)

 徐々に破壊されていく制御網。すでに正常に機能している部分は5割を切っている。
 こんなはずはなかった。
 肉体に多大な損傷があったり、魔法的な攻撃をうけたりしたのならいざしらず、なぜこんな事に?

(原因は? いったい何っ?)

 焦燥を募らせながら、首元の血の線を拭い取る。
 瞬間、脳裏にか細い『声』が響いた。

(また…血…)
(真鈴…さん?)

 それはまるで別人の声を聞くようだった。
 脅える者の声だった。

(いやだ。血が出てる。いっぱい、出てる…。し、しんじゃうよぉっ)
(ま、真鈴さんっ、落ち着いて下さいっ)
(いやっ、いやだっ。怪我してるっ。あたしの体なのにっ)

 完全に恐慌状態になっていた。
 彼女はようやく気付いたのだ。
 これは映画とは違う。たとえ指一本動かせなくとも、実際に戦っているのは真鈴の体なのだという事に。
 他人事という感覚は己の血を見た瞬間に吹き飛んだ。

(いやぁぁぁぁぁっっ)

 叫びと共に、マリンは次々と制御網が切断されていくのを感じとって愕然とする。

(そ、そんなっ。真鈴さんがこれをっ!?)

 それは完全にマリンの計算ミスだった。
 真鈴の魔法的素質を完全に過小評価していたのだ。
 暴走した感情が、真鈴の体を支配する魔法を片っ端から破壊して回っている。

(真鈴さんっ、真鈴さんっ!!!)

 マリンは必死で呼びかける。
 このままでは最悪の結果になりかねない。
 だが、むしろ火に油をそそいだかのように真鈴の意識は暴走していく。

「たいしたダメージではないはずだが。作戦のつもりか?」

 何時の間にか脚を止めていた白疫鬼がマリンに向かって両手を伸ばしている。
 マリンは回りに何かが創り出されようとされているのを感じる。

(まずいっ!!!)

 すでに制御網は8割がた破壊されている。
 それでも無事な部分をフル稼働させて跳躍する。
 が、すでに手遅れだった。
 足に何かが絡まった。

(しまったっ!!!)

 地面に倒れ伏して歯噛みするマリン。
 絡みついたのはクモの糸を思わせる粘つく大量の糸。
 宙より生み出されたそれは彼女の自由を奪った。
 上半身は無事だが、こんな状態でまともに戦えるはずもない。

「この程度か」

 失望を押さえられぬ声を漏らす白疫鬼。

「我らを封じたあの魔術師が創りしモノゆえ楽しませてくれると思うておったが…、この程度とはな。まぁいい、少々残念だがさっさとケリをつけて一刻も早くいまいましい結界の縁より抜け出してくれる」

 ゆるやかに近づいてくる魔物にマリンは決断を迫られる。
 残された手段は後一つ。
 だが、その手段は極めて大きな代価を必要とした。

「しかし、さすがは外の世界と言うべきか。餌には不自由せぬ。このまま数日もあれば以前の力も取り戻せよう」

 怯える魂を感じる。
 本来の肉体の持ち主。
 彼女を危険に巻き込む資格が自分にはあったのか?

「さて、つまらぬ道具よ。これで終わりじゃ」

 すぐ横にせまった白疫鬼が尖った脚をゆっくりと上げる。

(ここまで…ですか)



 あらゆる楔
 あらゆる檻
 あらゆる鎖
 全て解き放つ
 何を無くしてもそこへたどり着く



「ロールバックッ!」

 マリンの姿が光に包まれる。

「むっ!!」

 白疫鬼が脚を振り下ろす。
 だが、マリンの体に突き刺さるより先に光の泡となり消え失せた。

「逃げた…か。まぁいい。これで二度と姿を現す事もなかろう」

 ふんっ、と鼻を鳴らす。
 今の魔法がどんなものか白疫鬼は知っていた。
 再び、前に立ちふさがる事があろうともすでに自分の敵ではない事も。
 ならば何も恐れる必要はない。

「されば、一刻も早く力を取り戻す事にするかの」

 口を大きくあけて、マリンに放った白い煙を宙に吐き出す。
 それは大気に溶けて薄く々々なりながら、どこまでも広がっていく。

「ククク…、アーハッハッハッハッ!!!!!」

 狂気じみた笑いが、暗い空へと吸い込まれた。






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