二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第二章 Release−第04話
「ちょっと、遠く過ぎたか?」
「いいじゃない、新鮮だわ」
病院近くの商店街まで二人は来ていた。
すれ違う人は二人に視線を向けはするが、足を止めるでなくそのまま歩き去っていく。
「何買って行こうかなー」
「買うのかよっ。あの病院コンビニあるじゃないか」
「飽きた」
「一言で切って捨てるなよ、店員さんが泣くぞ」
二人は会話をしながら、商店街を進んで行く。
「あ、修平君。ストップ」
「ん?」
「あれ、あれ」
美月の指差す方を見ると、どう見ても日本人に見えない人物が露天を開いている。
どうやらアクセサリー類を売っているようだ。
しょうがないとハンドグリップを操作して向きを変えてそちらへいく。
国籍不明の外人もこちらに気付いたようだ。
さすがに車椅子の客は始めてだったのか目を丸くしたがすぐに笑顔を浮かべる。
「ヘイ、ラッシャイ。ジックリ見テヨ。良イモノタクサン」
ブルーシートの上にさらに茣蓙を敷いて品物を並べている。
「コレ、全部、僕ノ手作り。心コモッテルヨ」
「ええっ?!」
美月も修平も驚いた。
確かに宝石のような石のついたものはなかったが、ネックレス、イヤリングのようなものはともかく、金属製の腕輪や指輪まである。
「手作りって、本当なの?」
「ハイ、実ハ僕、アクセサリーノ修行シテマス。師匠イテマス。
師匠ガ言イマシタ。自分ノ実力知リタケレバ、オ客様ノ顔ヲ直ニ見ルノガ一番。ソウ言ワレマシタ」
「はぁ、なるほど。これも修行の一環ってわけだ」
「イエス!」
と、そこで外人は肩を落とした。
「デモ、誰モ信ジテクレナイ。僕、嘘言ッテナイノニ。皆スコシ見テ、スグ行ッチャウ」
まぁ、それはそうだろうなと修平は思った。
出来が良すぎるのだ。大半が盗品か出所が怪しい品だと思ったに違いない。
「そもそも、その師匠って誰なんだ?」
「シモヅキヒサメ、言イマス」
それを聞いた途端に美月が車椅子から転がり落ちそうになった。
慌てて修平がささえる。
「何やってんだよ」
「私が言いたい……」
沈痛な面持ちで目尻を押さえる美月。
修平は外人には聞こえないように美月の耳に顔を寄せ囁く。
「もしかして、知ってる人?」
「霜月って、お母さんの旧姓なの……」
「……もしかして、この人の師匠って」
「お母さんよ」
「マジかよ」
「個展とかでは旧姓で通してるの」
「画家じゃなかったのかよ」
「画家は職業。他は趣味で色々やってるの。これはちょっと予想外だったけど」
外人は首をかしげている。
まさか、車椅子の少女が師匠の娘とは思ってもいないに違いない。
はぁ、っとため息を吐きながら美月は並べられたアクセサリーに目をやった。
そして、視線が一点に止まる。
「修平君、あれ取ってくれる?」
「ああ、これでいいのか?」
「うん」
美月に手渡したのは十字架のペンダントだ。
「クリスチャンにでもなるつもりか?」
「まさか。でも気にいっちゃった」
ただの十字架ではなく、細やかな彫り込み模様がついている。かなり手が込んでいるのは想像に難くない。
美月が気にいったのなら買ってやりたいが財布の中身で足りるかどうか。
修平は思い切って聞いた。
「あの、これいくらですか?」
「ノー、ノー、オ金イラナイネ」
「え? あの。売り物なんですよね?」
外人は嬉しそうに笑って
「師匠イッタ。自分ノ実力ヲ知ルノハ、オ客様ノ顔ヲ見ルノガ一番。
ダケド、僕ハ誰モ買ッテクレナクテ自信無クシテタ。
デモ、今自信取リ戻シタ。オ兄サン、オ穣サンニソレカケテアゲテ」
言われるままに修平は美月からペンダントを受け取り、美月の首にかける。
美月は嬉しそうに微笑んだ。
「オ代ハソレデ十分。僕ノ作品。大事ニシテ下サイ」
「ええ。宝物にするわ」
病院で書いた外出届けの帰る時間を大幅に過ぎていたが、ここまで来た甲斐があったなと修平は思った。
戻った後のナースの説教がペンダント代と思う事にしよう。
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