二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第二章 Release−第05話






 病室に戻ると予想通りというか、こってりとナースに搾られた。
 まぁ、自業自得ではあったので二人は大人しく説教を受け入れた。
 面会時間も過ぎていたので、修平は説教の後に追い出された。
 さて、帰るかと美月の病室から少し離れたところで視線を感じた。

「何か用か?」

 視線の主に尋ねる。
 それは入院患者用のガウンを着た少年だった。
 中学生位だろうか?
 なぜか、ガウンの左の袖に手を通していなかった。

「お前、お姉ちゃんの恋人か?」
「お姉ちゃん?」

 少年はビシッと美月の病室を指差す。

「ああ、そうだ。俺は彼女の彼氏――」
「嘘だ」

 修平の言葉を少年は突き刺すような言葉で遮る。

「嘘じゃない、美月は俺の彼女だ」
「だったら、なんでお前はお姉ちゃんをあんな目で見てるんだ」
「あんな目?」

 少年はガウンの袖をとおしていない左側をはだけさせた。
 そこにはあるはずの左腕がなかった。

「今、お前は俺に同情してるだろ。その歳で可哀想な奴だと。
 みんな、そうだ。人の気も知らないで勝手に同情する」
「……かも知れない。でも、それは自然な反応じゃないのか?」
「ああ、別に俺は気にしちゃいない。
 でもな、お前が今俺を見ている目、そんな目でなぜお姉ちゃんを見てる?
 それが恋人を見る目かよ」

 少年の言葉が刃のように胸を突き刺す。
 言葉がでない。
 反論したいのに、反論しなければならないのに、何も言い返せない。
 少年は続ける。

「俺は誰かを好きになった事はないけど、ここでそんな目をしている自称恋人を名乗ってる奴はロクな奴がいなかった。
 お前はお姉ちゃんを絶対に不幸にする。その前に別れろよ」
「……悪いけど、それは出来ない。絶対に」
「なぜだよ?」
「俺は大切なものを捨ててまで、彼女の杖になる事を選んだんだ。今更どんな道があるって言うんだ。
 美月を不幸になんてするものか。俺には彼女をいつだって笑っていられるようにする。それだけだ。
 それ以外なんてとっくに捨てている」

 少年は、はだけさせたガウンを直して走り去っていった。

「なんだったんだ?」

 修平は呆然と呟いた。





 その日の晩、修平は夢を見た。
 細い鎖に雁字搦めにされ抜け出そうとするが、一向に鎖が緩む気配はない。
 そのうちに全身に痛みが走る。
 全身を縛る鎖がいつの間にか有刺鉄線にかわっていた。
 それは、修平の血で赤く染まっていく。
 有刺鉄線の両端は遥か彼方の果てにあり、何に繋がっているのか分からない。
 ただ、キリキリと修平の体を締め上げ傷つける。
 どうすればそこから抜け出せるのか、夢から覚めるまで答えは見付からなかった。






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