二人を結ぶ赤い有刺鉄線 第二章 Release−第06話






「お、さっそくつけてるな」

 翌日、美月の病室を訪れた修平は彼女の首に十字架のペンダントがかかっているを目にして言った。

「いっそ、入信とかしたらどうだ?」
「似合わないわよ、私に宗教なんて」

 美月は笑って言った。
 そして、必要ともしないんだな。修平は心の中で付け足した。
 ふいに昨日の事を思い出した。

「そういえばさ」
「なに? 修平君」
「昨日、中学生くらいの男の子に呼び止められたんだけどさ、左腕がない子なんだけど」
「ああっ。それは達郎君ね」
「知り合い?」
「ここの院長先生の息子よ。
 腕と足の違いはあっても失くした者同士だと思われてるのか、しょっちゅう遊びに来てるわよ」
「でも、俺は会ったのは昨日が初めてだけど」
「だって、修平君が来た時は外出てる事が多いじゃない」
「あ、そうか」
「で? あの子と何かあったの?」
「え、あ。いや、ちょっと気になっただけだよ」
「本当に? 別れろとか言われたんじゃない?」

 心臓が止まるかと思った。
 心の中を見透かされたように感じた。
 だが、美月はイタズラっぽく笑った。

「もしかして図星? 実はあの子にプロポーズされたんだよね」
「……はい?」
「いやー、マセてるマセてる。
 ううん。あの子の環境が子供でいられなくさせたのかもね。あの体だからね」
「あれって、事故かなんかで?」
「ううん、病気で切らなきゃいけなかったんだって。
 辛いよね。私は否応なしだったけど、あの子は切り取らなければいけなかったんだから」

 修平は返答出来なかった。
 五体満足な体の修平には二人の立場にはなれないからだ。

「……で、実際どうだったの? 別れろって言われた?」
「いや、うん。まぁ」
「うっふっふ。モテる女は辛いねぇ」
「む、まんざらでもなさそうだな」
「拗ねない拗ねない。私は修平君一途だよ」

 一途……か。
 無論、修平には美月の全てを受け止める覚悟があった。
 だが、昨日達郎が言った言葉が今も突き刺さったままだった。
 同情ではいけないのだろうか?
 美月を大切にしたい。その気持ちに偽りはないのに。

「修平君、どうかしたの?」
「いや、なんでもない。今日も外に出るか?」
「それがねー、本日は外出禁止だって」
「あー、やっぱり昨日の」
「うん、今日出たら車椅子取り上げるとまで言われちゃった」
「きついなそれは。でも、ずっとじゃないんだろ?」
「うん、来週だったらいいって。勿論、時間厳守でと釘はさされたけど」
「そりゃそうだろうな」

 そうして、二人はしばらくの間、雑談に花を咲かせた。






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